精密分子操作による量子相転移の制御・観察に成功

~サブオングストロームスケールの構造変形により分子中のスピンを可逆的に操作~

2017.06.29
(2017.06.30 更新)


東京大学
国立研究開発法人物質・材料研究機構

東京大学とNIMSらの研究グループは、金表面に吸着した鉄フタロシアニン分子に走査トンネル顕微鏡の針を近づけ、鉄原子の位置をサブオングストロームスケールで制御することで、分子のスピン状態を可逆的に変化させることに成功しました。

概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程の大学院生平岡諒一 (研究当時、現住友化学株式会社) 、同研究科の高木紀明准教授、同工学系研究科の南谷英美講師、物質・材料研究機構主任研究員の荒船竜一らの研究グループは、金表面に吸着した鉄フタロシアニン分子に走査トンネル顕微鏡の針を近づけ、鉄原子の位置をサブオングストロームスケールで制御することで、分子のスピン状態を可逆的に変化させることに成功しました。
その背後にあるメカニズムは、近藤効果とスピン軌道相互作用の拮抗です。分子内部の鉄に局在したスピンが近藤効果によって生じる量子多体状態をとるか、スピン軌道相互作用による異方的なスピン状態をとるかは、分子と金表面の相互作用によって決まります。STMの針による分子操作でこの相互作用を精密に変調することで、2つの状態間の量子相転移を実現し、それが分子の電気伝導特性の変化によって検出できることを実験・理論によって初めて明らかにしました。
分子操作によってこのような量子相転移を制御・観測した例はこれまでにありません。本研究成果は、量子多体現象に対する理解の深化や、単分子デバイスの新たな動作機構につながるものです。

「プレスリリース中の図2 : STMを使った分子の構造変化によって引き起こされる量子相転移STMの針が鉄フタロシアニン分子の鉄原子に近づくと、鉄原子が持ち上げられ、近藤効果がスピン軌道相互作用 (SOI) に対して弱められる。このため、近藤効果による量子多体状態からスピン軌道相互作用による異方的なスピン状態に量子相転移が起こる。」の画像

プレスリリース中の図2 : STMを使った分子の構造変化によって引き起こされる量子相転移
STMの針が鉄フタロシアニン分子の鉄原子に近づくと、鉄原子が持ち上げられ、近藤効果がスピン軌道相互作用 (SOI) に対して弱められる。このため、近藤効果による量子多体状態からスピン軌道相互作用による異方的なスピン状態に量子相転移が起こる。



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(研究内容に関すること)

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准教授
高木 紀明 (たかぎ のりあき)
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東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻
講師
南谷 英美 (みなみたに えみ)           
TEL : 03-5841-7136
E-Mail: eminamitani=cello.t.u-tokyo.ac.jp
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国立研究開発法人物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)
ナノシステム分野 表面量子相物質グループ
主任研究員
荒船 竜一 (あらふね りゅういち)
TEL : 029-860-4475
E-Mail: ARAFUNE.Ryuichi=nims.go.jp
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