水中の希薄な水銀イオンを高感度で検出する方法を開発

湖沼環境を汚染する水銀の高精度モニタリングと早期発見が可能に

2013.02.06


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のホアン・ヴ・チュン博士研究員、長尾 忠昭グループリーダー、青野 正和拠点長らの研究グループは、河川や湖沼などに微量に溶解した有害物質である水銀イオンを、従来の分光法よりも10倍以上高い感度で検出できることを見いだしました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のホアン・ヴ・チュン博士研究員、長尾 忠昭グループリーダー、青野 正和拠点長らの研究グループは、河川や湖沼などに微量に溶解した有害物質である水銀イオンを、従来の分光法よりも10倍以上高い感度で検出できることを見いだしました。検出には赤外分光法を用いています。
  2. 水銀は対処法の難しい汚染物質です。金属精錬・鉱山の廃液からだけでなく、化石燃料の燃焼や火山活動、火葬場などから排出されます。また、身近なところでは、乾電池、蛍光灯、体温計、血圧計などの廃棄物からも排出されます。水銀は室温で容易に揮発し、蒸気として大気圏内を拡散してゆくため、世界中に広がります。国連では、平成25年1月13日から多国間交渉が行われ、規制のための条約案が1月19日に採択されました。一般に生体の水銀汚染は時間をかけて蓄積され、緩やかに進行することから、水環境にある低濃度の水銀を早めに検出することは、最重要の課題です。
  3. 今回、本グループは、ナノスケールの隙間を持つ金ナノ構造に、水銀イオンを選択的に吸着できるような表面コーティングを施し、水中から水銀イオンを高感度、かつ、選択的に検出できる方法を開発しました。これまで、水環境の計測には不向きであるとされていた赤外分光法において、金のナノスケール間隙に発生するプラズモンを用いることで、不要な水のスペクトルを低減しました。またナノスケール間隙内のプラズモンの増強電場により感度を増強することで、市販のフーリェ変換赤外吸収分光器を用いて水銀イオンの検出限界をppt (一兆分の1) レベルにまで低減できることを見いだしました。
  4. 水中に溶けた金属イオンは、そのままでは赤外分光法で計測できません。しかし、今回、表面コーティング材料に選択吸着させることで、霞ヶ浦の水に意図的に含ませた30ppt程度の濃度の水銀イオンを、他の成分と共に区別して検出できました。本研究により、赤外分光を用いて、湖沼の水銀汚染を微量なレベルから評価できることが分かりました。今後は、簡便で、精密な水環境モニタリングへの展開が期待されます。また、この計測法を発展させることで、水銀以外の環境汚染や産業排水の水質モニタリングなどにも貢献することが期待できます。
  5. 本研究成果は、日本時間平成25年2月6日にScientific Reportsのオンライン速報版で公開されます。

「プレス資料中の図1 :  (a) 表面コーティング材料 (DNAアプタマー) の模式図。水銀イオンだけが選択的に吸着し、生体分子は吸着しない。 (b) 環境水を採取した霞ヶ浦。 (c) 表面コーティング材料で覆われた金表面のナノスケール間隙の模式図。」の画像

プレス資料中の図1 : (a) 表面コーティング材料 (DNAアプタマー) の模式図。水銀イオンだけが選択的に吸着し、生体分子は吸着しない。 (b) 環境水を採取した霞ヶ浦。 (c) 表面コーティング材料で覆われた金表面のナノスケール間隙の模式図。



お問い合わせ先

研究内容に関すること

独立行政法人 物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
ナノシステム構築ユニット
ナノシステム光学グループ
グループリーダー
長尾 忠昭 (ながお ただあき)
TEL:029-860-4746
E-Mail: NAGAO.Tadaaki=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
独立行政法人物質・材料研究機構 
企画部門広報室
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