電子顕微鏡の分解能を世界一にする高性能電子源を開発

六ホウ化ランタンナノワイヤを用いた電界放射電子源

2010.09.07


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

NIMSはランタンホウ化物 ナノワイヤの表面清浄化技術・結晶制御技術を確立することに成功し、電子顕微鏡の性能を飛躍的に向上させると期待されているランタンホウ化物の実用化に目途をつけることができた。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 材料信頼性萌芽ラボ (ラボ長 : 原田 幸明) の一次元ナノ材料グループ 唐 捷 グループリーダー及びZhang Han 研究員はランタンホウ化物 (LaB6) 1)ナノワイヤの表面清浄化技術・結晶制御技術を確立することに成功し、電子顕微鏡の性能を飛躍的に向上させると期待されているランタンホウ化物の実用化に目途をつけることができた。
  2. 現行の電子顕微鏡では、針状のタングステン (W) の先端から放出された電子を高電圧により加速し、それを用いた電子線によって拡大像を得てきた。電子源をさらに長寿命化しつつ、より高い分解能を目指すためには、電子源から電圧によって直接電子を引き出す電界放射型2)とし、その目的により適した材料の開発が求められてきた。その材料の代表例がLaB6である。
  3. NIMSは、先に米国ノースカロライナ大学との共同研究で、LaB6のナノワイヤを作成することに成功し、技術として確立してきた。これは、特殊な環境下においてナノワイヤを自然に成長させるもの (化学気相法) である。このナノワイヤを電子源として実用化するためには、特性の安定化が必須であり、表面の清浄化と表面の構造、すなわち結晶面の制御が必要である。
  4. 今回、電界蒸発によりナノワイヤ表面の清浄化を行うことに成功した。これによって電子源の高輝度放射のために不可欠な不純物の除去ができた。また、化学気相法の最適化によって自然成長されたナノワイヤの結晶方位・結晶面の制御を行うことにも成功した。本技術の確立によって、LaB6のナノワイヤを電子源として用いるために最適な結晶面を得ることが可能となった。
  5. 本開発成果により、従来の性能を大幅に超える電界放射電子源の実用化に必要な課題を解決する事が出来た。LaB6電界放射型電子源を用いた電子顕微鏡が実用化されれば、電子顕微鏡等の計測・分析装置の性能を一桁程度向上させ、より鮮明な画像や元素識別能力を上げることができる。また、電子線描画装置や医療用X線装置等の性能向上の他、ナノテクノロジーの研究水準と研究効率を格段に向上させると期待される。今後、民間企業との共同研究開発によって実用化・製品化を進めていく予定である。
  6. 本成果は、独立行政法人科学技術振興機構 産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】要素技術開発プログラムの開発課題「ナノ構造制御LaB6次世代電界放射電子銃の開発」 (チームリーダー : 唐 捷) の一環として得られたものである。なお、本開発成果は、9月8日の米国科学誌Nano Lettersに掲載される予定である。

「プレス資料中の図3 LaB6単結晶ナノワイヤ電子源表面が電界蒸発によりクリーニング化され明瞭となった電界イオン顕微鏡像(a,b)とその電子源の電界放出電子像(c)及び電界蒸発清浄化により最適化された電子源先端の走査型電子顕微鏡写真(d,e)とクリーニング過程を示すイラスト(f)。」の画像

プレス資料中の図3 LaB6単結晶ナノワイヤ電子源表面が電界蒸発によりクリーニング化され明瞭となった電界イオン顕微鏡像(a,b)とその電子源の電界放出電子像(c)及び電界蒸発清浄化により最適化された電子源先端の走査型電子顕微鏡写真(d,e)とクリーニング過程を示すイラスト(f)。



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