大阪大学大学院工学研究科の杉本 宜昭 特任講師、阿部 真之 准教授、森田 清三 教授のグループと独立行政法人物質・材料研究機構の
Oscar Custance グループリーダーは、科学技術振興機構などと共同で、表面の特定の位置に異種の単原子を埋め込む技術を開発した。この技術は、鋭い針先端の単原子と表面の単原子との交換現象に基づいており、これを高精度に制御することにより、原子レベルのパターンを表面に自由に作製できるようになった。本研究は、室温環境下で行われており、半導体デバイスにおけるドーパント原子の精密な配置やナノデバイスを原子1つ1つから組み立てるボトムアップナノテクノロジーへ応用可能である。
本研究成果は米国の科学雑誌Science (10月17日号) に掲載される。
半導体微細加工技術に基づく高度なエレクトロニクスは、我々の生活に必要不可欠なものとなっている。現在では、ドーパント原子の分布がデバイスの特性に影響を与えるまでにミクロ化が進行している。さらなるデバイスの向上のためには、ドーパントを単原子レベルで精密に配置する技術が必要となる。そこで本研究では、表面の個々の原子を画像化できる原子間力顕微鏡 (AFM) 注2を用いて、AFMの探針先端の原子を表面の特定の位置に埋め込む技術を開発した。室温AFMを用いて実験を行い、試料としてシリコン基板上に単原子層成長させたスズ表面、鉛表面、インジウム表面を用いた。
我々は、図1に示すように、AFMの探針を表面の目標の原子に精度よく近づけると、探針先端の1個の原子と表面の1個の原子とが交換する現象を発見した。これによって、探針先端の異種原子を表面へ高速で埋め込むことが可能になる。 AFMでは、探針先端に作用する力を測ることができるため、探針を目標原子に近づける際、原子交換に伴う相互作用力の変化を検出することによって、原子交換現象を制御できる。この原子交換に基づく新しい原子操作は、次に示す2つの技術によって初めて可能になった。