金属原子ワイヤーの中の電子が引き起こす音響波的な波

究極のワイヤーに生ずる低次元プラズモンの物性を解明

2006.09.13


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSナノシステム機能センターは、岩手大学工学研究科と共同で、人工的に制御された金属原子ワイヤーに発生する赤外帯域に周波数を持つプラズモンの発見とその物性の解明に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) ナノシステム機能センター (センター長 : 青野 正和) のナノ機能集積グループ (グループリーダー : 中山 知信) の長尾 忠昭 主幹研究員は、岩手大学工学研究科 (研究科長 馬場 守) の稲岡 毅 助教授と共同で人工的に制御された金属原子ワイヤーに発生する赤外帯域に周波数を持つプラズモンの発見とその物性の解明に成功した。赤外帯域はバイオセンサーなどへの応用が最適な周波数帯域である。
  2. 金属ナノ粒子やナノロッドの「プラズモン」と光との相互作用が光科学技術の分野で注目され、その設計・制御・応用技術が世界中で研究されている。デバイス構造が伝導電子間距離と同程度に超微細化した場合には、電子系の強い閉じ込め効果のため、プラズモン周波数帯の変化や、電子同士の避け合いの効果 (量子力学的多体効果) が問題となり、これらに関する理論・実験両側面からの解明が待ち望まれていた。特に1次元電子系のプラズモンは表面プラズモンの発見以前に朝永振一郎氏がその理論の中でいち早く注目したことでも知られる多電子系の音響波的な集団運動であり、金属原子ワイヤーの中にも存在することが予想されていたが、その性質に関しては全く未解明であった。
  3. 特殊な結晶方位で切り出したシリコン表面に、金原子を吸着させて温度処理を施すことにより、金原子ワイヤーを約2ナノメーター(1ナノメーターは10億分の1メートル)の間隔で周期的に並ぶ配列を作製した(Nature 402, 504 (1999))。これを、独自に開発した世界最高の角度分解能を持つ低速電子分光装置を用い、原子ワイヤーからの信号を高感度に検出した。その結果、予想通り赤外領域で音響波的に振舞う1次元プラズモンの測定に成功した。さらに、量子力学的多体効果を取り入れた理論を用いて定量的な解析を行った結果、この電子系は自由電子的な振る舞いが期待されたにもかかわらず、強い1次元閉じ込め効果のため、電子間の交換・相関効果と呼ばれる量子力学的多体相互作用がプラズモンの周波数に影響を及ぼしていることが明らかになった。
  4. 今回の研究では究極の原子サイズの金属ワイヤーを用い、それに特有な赤外領域のプラズモン物性を初めて明らかにしている。この研究を契機として、低次元金属物質の物性研究、あるいは、プラズモン研究の多様性が格段に広がり、光学素子の微細化やバイオ応用に適した赤外プラズモンセンサーなどへと新規な光学機能・デバイス応用研究への展開が期待できる。
  5. この研究は科学研究費補助金 (基盤研究B) および科学技術振興機構 ICORPプロジェクト (ナノ量子導体アレー) などの助成を現在受けており、この研究成果の第一報が、9月15日に、Physical Review Letters誌に掲載される。

「プレス資料中の図1: 作製した金属原子ワイヤーの構造模式図。青い点線で囲った金 - シリコンのジグザグ鎖の部分が理想的な高密度1次元電子系となる。理論解析から、電子の波であるプラズモンは、金原子ワイヤーの付近、幅0.4nmの範囲で発生していることが分かった。」の画像

プレス資料中の図1: 作製した金属原子ワイヤーの構造模式図。青い点線で囲った金 - シリコンのジグザグ鎖の部分が理想的な高密度1次元電子系となる。理論解析から、電子の波であるプラズモンは、金原子ワイヤーの付近、幅0.4nmの範囲で発生していることが分かった。



お問い合わせ先

研究内容に関すること

独立行政法人物質・材料研究機構
ナノシステム機能センター ナノ機能集積グループ
長尾 忠昭 (ながお ただあき)
TEL: 029-860-4746
FAX: 029-860-4793
E-Mail: NAGAO.Tadaaki=nims.go.jp
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