永久磁石材料

永久磁石材料

永久磁石材料

 磁性材料というのは物質の磁気的な性質を工学的に応用することができる材料ですので、大部分の磁性材料が強磁性体ということになります。強磁性体というのは原子のスピンの向きが交換結合によって一方向を向いている物質ですから、物質自体に磁化を持ちます。このように物質自体で磁化をもっているのに、磁石になっていない状態が存在するのは、強磁性材料が多くのミクロの磁区で形成されていて、それらの自発磁化がお互い打ち消すことによって静磁エネルギーを下げて安定な状態になっているために、消磁状態では外部に磁界を発生させないからです。つまり金物屋から買ってきたばかりの鉄釘は消磁された状態になっています(図1 (a))。釘を磁石で何度もこすると釘は磁石になります。釘にエナメル線でコイルを巻いて、大きな電流を流しても釘は磁石になります。磁石になるということは、釘の長手方向から磁界が発生していることです。このような状態を磁化されたといいます。磁化された状態というのは、磁区を構成する磁壁が磁場方向と同じ磁化を持つ磁区が成長するように移動して、磁場と同じ方向を向いた磁区だけになった状態です。このように磁壁が消失してしまった状態を磁化が飽和したというように呼び、このときの磁化を飽和磁化(Ms)と呼びます。
 先の磁化曲線の説明で述べたように、磁石材料の特性としてはエネルギー積(BH)maxが大きいことが重要です。それに加えて、保磁力Hcが大きいことも用途によっては必要となってきます。使用目的によっては耐熱性や耐食性に優れていること、また原料が安価であることも重要な要因となってきます。

 磁石材料として優れた特性を得るためには、結晶磁気異方性が高く、さらには飽和磁化が高いことが必要です。磁石の最大エネルギー積の上限は飽和磁化の2乗に比例するので、このことからFeなどの磁化の高い強磁性材料で保磁力を高めれば高いエネルギー積がえられることがわかります。ただし、Feは結晶磁気異方性が小さいために、高い保磁力をえることができません。よって、強力な磁石となる可能性のある材料は飽和磁化が高く、かつ結晶磁気異方性が高い材料に限られてきます。最強の磁石として有名なネオジム磁石はNd2Fe14Bという結晶磁気異方性の高い化合物を主相として、その微細な結晶(5ミクロン程度)を磁気的に分断するような微細組織を実現して、初めて保磁力の高い磁石になります。いくら素性のいい材料でも、保磁力がでるような微細構造が達成できなければ、それは磁石になりません。

 図1はNd2Fe14B化合物の結晶構造と原子位置、さらに磁化容易軸と磁化困難軸を示しています。このように結晶構造が立方晶で縦横に異方性があると、磁気的にも異方性が発現し、磁化容易軸と磁化困難軸方向に磁界を掛けた場合の磁化曲線に大きな差が現れます。磁化容易軸方向に磁界をかけると磁壁が容易に移動することによって簡単に磁化していきますので、低い磁界で磁化は飽和します。一方で、磁化困難軸方向には磁化の回転磁化によって徐徐に磁化されていくので、飽和させるためには非常に高い磁界が必要です。この困難軸と容易軸方向の磁化曲線が交ざり合う磁界を異方性磁界Haと呼んでおり、これが異方性エネルギーを評価する物性値となります。結晶磁気異方性エネルギーKuは容易軸と困難軸の磁化曲線で囲まれた面積Ku=MsHa/2となります。このKuまたはHaが高い物質が磁気異方性の高い物質であり、これらの物質を用いて微細組織を制御することによって高い保磁力をもつ永久磁石を造ることができます。
 強磁性体がナノサイズになると磁壁の存在しない単磁区粒子になります。単磁区粒子が他の粒子と磁気的に相互作用を及ぼさない場合の保磁力は上述の異方性磁界Haになります。例えば、Nd2Fe14B化合物の異方性磁界は70 kOe程度なので、理想的な磁石ができたとすると、その保磁力は70 kOe程度になっても良いわけです。しかし、現実のNd-Fe-B系磁石の保磁力は12 kOe程度、つまり理想の保磁力の15%程度にしかなっていません。

 磁石材料として特性を向上させるためには、結晶磁気容易軸を一方向に配向させる必要があります。図2に示すように、磁化容易軸がランダムに配向していると、減磁曲線が丸まってきますので、高い(BH)maxを実現することができません。一方で、容易軸が一方向に配向していると、減磁曲線が角張って来るので、高い(BH)maxを実現することができます。このように単結晶の微細結晶粒の容易軸方向を磁場中で配向させてプレスで固化し、さらに焼結した材料が高性能磁石の代名詞となっている焼結磁石です。高性能磁石材料として市場を席巻しているNd-Fe-B系焼結磁石は、Nd2Fe14B化合物よりも若干Ndリッチな組成の粉を焼結しています。これによってNd2Fe14B結晶粒の粒界部分に薄くNdリッチ相が形成され、これがNd2Fe14B粒を磁気的にも異方性孤立させ、保磁力を高める役割を果たしています。
 Nd2Fe14B化合物は異方性磁界が70 kOe, 飽和磁化が1.6 T、(BH)maxが50 MGOeという非常に優れた磁石です。しかりキュリー温度が300Cであり、保磁力の温度依存性が大きく、耐用温度が200C程度が限界という欠点もあります。ハイブリッド自動車や将来の電気自動車の開発をにらんで、現在より高い温度で使用できる磁石の開発が望まれており、高保磁力磁石の開発を目指した研究が活発になって来ています。
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