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研究支援実績

 

利用実施例 -エンテロウィルス71受容体の同定-

手足口病ウイルス(エンテロウイルス71)受容体遺伝子の同定

財団法人東京都医学総合研究所 ウイルス感染研究プロジェクト 小池 智 副参事研究員

はじめに

小池博士(左)と山吉博士(右)
小池博士(左)と山吉博士(右)

 東京都医学総合研究所は東京都立の臨床研、精神研、神経研という3つの医学系研究所が財団法人として統合された研究所で、東京都世田谷区にあります。同研究所の副参事研究員として主にウイルス感染についての研究を率いている小池智博士はポリオウイルス(小児麻痺ウイルス)の研究から研究者としてのキャリアをスタートし、現所属の東京都医学総合研究所の前身のひとつである東京都神経研に移られたのちに手足口病のエンテロウイルスの研究に手を染められ現在に至っています。今回我々がお手伝いさせてもらったエンテロウイルスの研究についてその背景から将来の目標に到るまでを小池先生と今回分子生物学的手法を駆使してウイルスの受容体決定に大きな役割を担われた山吉博士に伺ってきました。


研究の背景

手足口病について
 

 手足口病は小児が必ず一度はかかるといっていいほどあたりまえな病気です。ほとんどの場合は発疹が手、足、口の周辺に出るだけで済んでしまう軽い症状のみです。原因となるウイルスはコクサッキーA16ウイルス、本稿での研究対象エンテロウイルス71など複数あります。日本では主に春から夏の温かい時期に流行しますが、流行の原因となるウイルスは年により変わります。近年では2008年にはコクサッキーA16ウイルスが多く検出されましたが、2010年にはエンテロウイルス71が多く見つかりました。

エンテロウイルス71について
 

 エンテロウイルス71はピコルナウイルス科エンテロウイルス属に分類され、我が国にも常在しているウイルスです。先述の通り通常は乳幼児に手足口病を引き起こすウイルスの一つとして知られていますが、稀に重篤な急性脳炎を引き起こすこともあります。実際、このウイルスが初めて発見されたのは1969年の米国カリフォルニア州で神経症をおこした子供からのことでした。その後、1970年代には東ヨーロッパで数十名の死亡例がでる流行があり、さらには近年、1997年のマレーシアを皮切りに、台湾、中華人民共和国で数十人規模の死亡者がでる流行が繰り返されています(表1参照)。ただ日本では2010年にこのウイルスが流行した際でもそれほど重篤な症状に陥った患者はおおくありませんでした。

表1
表1
エンテロウイルス71を研究する意味
 

 このように時として重大な結果を惹き起こすウイルスに関して基礎的な研究を行っていることは公衆衛生の観点からも大変重要です。特に複数ある手足口病の原因ウイルスの中でエンテロウイルス71のみが重篤な症状を時として惹き起こすしくみを理解したいと考え、このウイルスの研究を続けています。今回、実施した研究はウイルスの受容体を決める、というものです。ウイルスの受容体、というのはウイルス粒子が人間などの体の中の細胞に侵入する際に最初の足掛かりになる細胞上のタンパク質などの生体分子です。例えばエイズウイルスでは免疫細胞上のCD4というタンパク質を主要な受容体として結合することがわかっています。別の言い方をするとウイルスが細胞に感染するためにどんな受容体を使っていて、その受容体が体のなかのどこに多く分布しているかということがそのウイルスが惹き起こす症状(病気)と深いかかわりがある、ということも考えられます。ところがエンテロウイルス71についてはこの研究以前に受容体を同定したという報告はありませんでした。


今回の成果

エンテロウイルス71の受容体同定を目指して
 

 エンテロウイルス71など人に手足口病を起こすウイルスはヒト由来の培養細胞株(ヒトの組織から取り出してシャーレの中で培養できるようにした細胞、この場合にはRD細胞という細胞株。)には感染させることができますがマウス由来の培養細胞株(L929細胞)には感染しません。ただ、マウスの細胞でも人工的な手法を用いてウイルスを細胞の内側に入れてしまえば細胞の中でウイルスが増殖して細胞の外に出てくる、という現象はみられます。つまりヒトの細胞はこれらのウイルスに対する受容体を持っているがマウスの細胞にはない、また、マウスの細胞に欠けているのはこれらのウイルスが細胞の中に入る手段だけ、すなわち受容体だけがない、ということです。

 そこで次にヒトの細胞からゲノムDNAを取出し、それをマウスの細胞に入れる、という実験を行いました。これは以前、ポリオウイルスの受容体を突き止めた時と同様の手法です。ヒトのゲノムDNAをマウスの細胞に入れてやるとヒトゲノムのほとんどの部分はマウスの細胞から排除されて残りませんがごく一部分だけはマウスのゲノムの中に偶然組み込まれて残ります。この際にヒトゲノムのどの部分が残るのかはほぼ偶然に決まります。つまり偶々、ウイルスの受容体の遺伝子を含むヒトゲノムの部分がマウスのゲノムに組み込まれることも起こり得るのです(図1)。

  図1 ゲノム組換えの模式図
図1 ゲノム組換えの模式図
 

 このヒトゲノムのごく一部を持ったマウスの細胞を沢山用意し、それらの中からエンテロウイルス71が感染できるようになった細胞が見つかればその細胞のゲノムにはヒト由来のウイルス受容体遺伝子が組み込まれている、と考えられます。この細胞探し(スクリーニングと言う)の為に大変役に立つものをその頃、完成させていました。それは何かというとエンテロウイルス71の遺伝子の一部を組み換えて、ウイルスが細胞に感染するとその細胞が蛍光を出して光るようになる組換えウイルスです。この蛍光をだすものというのはかつてノーベル賞もとった研究で有名なクラゲ由来の蛍光タンパク質(GFP)です。つまりこの組換えウイルスが細胞に感染するとGFPが細胞の中で生産されて光るようになるのです(図2)。さて、この便利な組換えウイルスと大変丁寧で忍耐強い実験を研究員の山下さんが実施してくれたおかげで目的のマウス由来だがヒトゲノムの一部を持ったためにエンテロウイルス71が感染できるようになった細胞株が2度の実験で2つ取れました(それぞれLtr051とLtr246と名付けた)。そこで次はこれらの細胞株がヒトゲノム由来のどんな遺伝子を持っているかを突き止めることになります。

  図2 ウイルス受容体発現細胞取得の模式図
図2 ウイルス受容体発現細胞取得の模式図
今回のナノテク融合での成果
 

 ここで一体どうやったらLtr051とLtr246からヒトゲノム由来の遺伝子を早く見つけ出せる可能性が高いかを考えたところ、DNAマイクロアレイ(マイクロアレイについて:参照)を用いて細胞内に発現している遺伝子を網羅的に調べれば目的の遺伝子を突き止められるのではないかと思い至りました。ただし通常のマイクロアレイのようにマウスのメッセンジャーRNA(mRNA)をマウス用のマイクロアレイを用いて解析するのではなく、Ltr051、Ltr246からとったmRNAをヒト用のマイクロアレイを用いてL929細胞のmRNAと競合ハイブリさせて解析すればLtr051またはLtr246で強く光るスポットとなる遺伝子がヒトゲノム由来である可能性が高いはずだと考えました(図3)。

  図3 マイクロアレイを使ったヒト由来遺伝子の同定実験
図3 マイクロアレイを使ったヒト由来遺伝子の同定実験
 

 ちょうどこのころ(独)物質・材料研究機構のナノテクノロジー融合センター(現ナノテクノロジー融合ステーション)が文部科学省のナノテクノロジーネットワークプロジェクトの一環として共用施設として利用できること、さらにそこのソフトマテリアルラインではマイクロアレイ解析を実施できることを知り、早速連絡し、共同でマイクロアレイ実験を進めることになりました。ソフトマテリアルラインの竹村博士研究員が中心となりマイクロアレイの実験・データ解析を進めてくれました。Ltr051とLtr246がヒト由来の同じ受容体遺伝子を持っているのではないかと最初は考えていましたが、マイクロアレイの実験結果を見ると同じ遺伝子を持っているようには見えず、それぞれの細胞から独立に実験を進めることにしました。

 マイクロアレイの結果からヒト由来らしい遺伝子をそれぞれの細胞で推定し、それらが実際に各細胞のゲノム上に存在しているかPCR法で確認しました。ついでゲノム上に実際にあったものについて、その遺伝子を新たにL929細胞に人工的に導入しウイルスが感染できるようになるかを確認しました。これら一連の実験は山吉研究員により精力的に進められました。これらの実験の結果、Ltr051細胞株で発現していたスカベンジャーレセプターB2型(SCARB2)の遺伝子をマウスの細胞に導入するとエンテロウイルス71が感染できるようになることが示され、このタンパク質、ヒトSCARB2がこのウイルスの受容体であることがわかりました。

 次にこのヒトのSCARB2を導入したマウス細胞が他の手足口病の原因となるウイルスに対しても受容体として働くことができるかどうかを確認しました。コクサッキーA16などのウイルスでは受容体として働かない、ということになればエンテロウイルス71だけがなぜ時おり神経症状を惹き起こすのか、ということの理由の一つだと考えることができます。しかし、実験の結果は他の手足口病ウイルスもほぼ全てがこのSCARB2タンパク質を受容体として利用していることを示すものでした。エンテロウイルス71の強毒性を説明することはできませんでしたがこのウイルスの研究を進めるうえで大変大きな一歩になったことは明らかで、これらの結果はネイチャーメディスン誌に2009年7月に掲載されました(文献1)。

 さてもう一方の細胞株、Ltr264に組み込まれた遺伝子の探索は簡単には進んでいません。Ltr051株と同様にマイクロアレイ解析を行い、候補の遺伝子を決め、人工的にL929細胞に遺伝子を導入、という手順で調べたのですがこれまで調べた遺伝子の中にエンテロウイルス71の受容体となっている遺伝子は見つかっていません。この細胞株の遺伝子についてはマイクロアレイのみならず網羅的な配列解析も実施し、検討しています。今回得たSCARB2のほかにもう一つ、別の遺伝子が見つかることを期待しています。

 

 以上の結果より、メダカでは遅筋特有のタンパク質のみを発現している筋線維は胸ヒレ付近ならびに背筋付近には分布しておらず、ハイブリット筋線維が背筋付近にわずかに分布していました。また、ハイブリット筋は速筋線維に比較して著しく細い線維であることが判明しました。低温飼育により速筋においてはユビキチンリガーゼであるatrogin-1の発現が上昇しており、筋萎縮が生じやすい状態であることが考えられました。

 飢餓状態と通常状態を比較したLC-MS/MS分析からは、飢餓状態の遅筋において1度目の分析では、753個のタンパク質の発現が見られ、2度目では、432個のタンパク質が同定されました。このうち、飢餓状態の遅筋と通常状態の遅筋に共通に発現していて、飢餓状態の速筋にも、通常状態の速筋にも発現していない遅筋特異的と思われるタンパク質が6個同定できました。また、飢餓個体の速筋、遅筋にともに発現しているが、通常状態の速筋、遅筋には発現していない、飢餓状態で特異的に発現していると思われるタンパク質も2個同定されました。


その後の経過と今後の目標

 以上のようにナノテクノロジー融合ステーションの協力も得てウイルスの受容体を同定し遺伝子を得ることもできました。現在はウイルスと受容体がどのように相互作用するかなどの詳細な解析を進めているのはもちろんですが、このヒトSCARB2遺伝子をマウスに導入した組換え動物も実験用に作成しています。この遺伝子組換え動物ができ、エンテロウイルス71の感染と発症が確認できればさまざまな実験に用いることが可能になります。例えば現在、台湾などではエンテロウイルス71に対するワクチンの開発が行われていますがこのワクチンの有効性試験に用いることができ、これまではサル類でしかできなかった実験がマウスでできるようになります。最初に述べたように現在でもエンテロウイルス71の感染によって子供たちを中心にアジアで大きな被害が出ており、有効なワクチンが開発されれば大勢の命が救われることになります。私たちの研究の成果がこのワクチン開発やさらには抗ウイルス薬の開発に少しでも役立つなら素晴らしいことだと思っています。


おわりに~ウイルスについて

 ウイルスは生物と無生物(生物でないもの)の中間的存在だと高校の生物参考資料などに書かれており、多くの方はそう思っているのかもしれませんが私どもは生物だと考えています。古典的な生物の定義ではウイルスには例え自己増殖能があると認めることにしてもエネルギー代謝などはしないので生物のような、無生物のような、という見方をされてしまいがちですがちゃんとした戦略を持って特定の細胞に侵入し、その細胞のメカニズムを乗っ取って自己を複製しますし、なによりも地球上の生物の特徴である「進化」や「適応」をしています。環境の変化に対応して進化していくという点で、やはりウイルスは生物だと考えることができると思っています。この点、ウイルスのように病気を運ぶといわれるプリオンは生物ではない、と考えています。プリオンは細胞に侵入して自分と同じ形のプリオンタンパク質をもともと細胞中にあったタンパク質の構造を変えることで増やしていきます。これはウイルスの自己複製とは違います。

 最後に、数ある病原性のウイルスの中でとりわけ有名なエイズウイルスやインフルエンザウイルスなどではなく、比較的地味なエンテロウイルスの研究を何故続けているかを少し説明しますと、ウイルスというのは何か病気のような現象を惹き起こすと存在がわかりますが実はそこら中にめだたず存在しているかもしれず、また、非常に進化(遺伝子の変化)の速度が速い。つまりこれまで大した流行、被害がなかったウイルスでもある日、猛威を振うかも知れない。その時にだれもそのウイルスの研究をしていないという事態は避けなければならない、ということで、いま現に猛威を振っているウイルスだけでなく、いろいろなウイルスの研究を続けている意義があるのではないかと考えています。


文献

1. Yamayoshi S., Yamashita Y., Li J., Hanagata N., Minowa T., Takemura T. and Koike S.: Scavenger receptor B2 is a cellular receptor for enterovirus 71. Nature Medicine, (2009) vol. 15, pp798-801.


参照

マイクロアレイについて


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