温間加工した低炭素鋼の転位密度に及ぼすリン添加の影響

材料創製研究グループ 主任研究員 殷 福星

キーワード:温間加工、低炭素鋼、転位密度、X線回折

 循環型社会を目指して、鉄鋼組織の超微細粒化によりリンなどの不純物の悪影響を無害化することが本ミレニアムプロジェクトの研究目的の一つである。
結晶粒微細化、固溶強化等の手段を用いて、リンを含む低炭素鋼の引張強度を400MPaから600MPaまで上昇させ、画期的な材料創製技術を確立することが本プロジェクトの目標である。

 例として、650℃での温間溝ロール加工において、断面縮小率が90%に達すると、低炭素鋼のフェライト粒径が1mm以下となる。0.1mass%Pを添加した同成分の鋼においても、フェライト粒径が同じく超微細化された。その結果、微細結晶粒組織の場合、リンの添加は鋼の靭性に殆ど影響なく、材料強度が大幅に上昇した。

 リンを含む鋼の靭性は粒界にリンの偏析量に制御され、微細結晶粒化によってリンの粒界偏析が有効的に避けられる。一方、鋼の強度の変化は結晶粒の微細化とリンの固溶強化が寄与すると考えられる。それらの強化機構の両方ともは転位モデルに基づいてもので、理論モデル、あるいは経験式の殆どが転位密度少ないマトリクスを想定したものである。しかし、強加工によって得られた超微細化したフェライト粒には多量の転位が残されている。このような加工組織における結晶粒微細化強化、それに固溶原子の固溶強化効果を正確に評価するには転位の密度と性格の把握することが重要である。

 X線回折方法は材料の統計的な転位分析によく使われている。最近ハンガリの研究グループはWarren-AverbachのX線プロフィール解析モデルを結晶のひずみ異方性の影響を注目し、修正したWarren-Averbach解析法を提案した。この新たな解析法に基づいて、強加工した0.15C-0.3Si-1.5Mn(mass%)鋼の転位密度及び0.1P添加の影響を調べた。

 加工方法は溝ロールを用いて、650℃で断面減少率85%まで圧延を行った。
RINT2500X線回折装置を用いて、試料の110, 200, 211,と220回折プロフィールを測定した。生のプロフィールにバグランド除去、測定誤差因子の校正をし、フリーエ変換に通して、各回折プロフィールからフリーエ長さ(L)に対応するフリーエ係数、A(L)を求める。修正したWarren-Averbachの計算式を用いて、組織の転位密度と性格パラメータが算出できた。

 その結果、温間加工した無リン添加の鋼の転位密度が1.06×1014m-2となり、0.1Pmass%を添加した鋼のそれは1.98×1014m-2であった。同じ加工プロセスにおいて0.1Pの添加した鋼の残量転位密度が約2倍で多く残されていることが分かった。

 また、転位性格のパラメータはリンを含む鋼にらせん型転位の割合がより大きいということを示唆した。鋼のフェライトに固溶するリン元素の存在が加工する間にミクロンひずみ、即ち転位の蓄積に有効であることがわかる。いわば、リンの固溶した鋼において、加工により超微細フェライト結晶粒はより容易的に生成する可能性がある。

 また、フェライトに多量な残留転位が構造用鋼に望まれる高いひずみ硬化率にも寄与することも考えられる。