「溶接部の漏洩磁束探傷試験に及ぼすHAZの影響」

若手国際研究拠点  植竹一蔵

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構造物の溶接部及びその近傍は、形状及び材質変化を伴うため、母材に比較して欠陥が発生しやすい部分である。溶接構造物の定期的な保守検査においては、強度に著しい影響を及ぼす表面欠陥を重視し、表面欠陥の検出力が高い磁粉探傷試験や浸透探傷試験が適用される。しかし、現状はこれらの試験法で得られる情報から、検出した欠陥の深さを知ることは困難である。

溶接部の保守検査においては、検出された欠陥の正確な形状把握と管理が重要となってきており、欠陥深さの定量的評価が望まれている。欠陥深さの定量的評価が可能な手法として漏洩磁束探傷試験(MFLT)法があるが、これまでMFLT法が溶接部の保守検査に適用された例がない。そこでMFLT法適用の可能性を検討する上でどのような影響があるかを明らかにし、その対応について検討した。

試験片は、突合せ溶接した鋼板の余盛りを削除し、溶接部及びその近傍に同一寸法(深さ0.5×幅0.2×長さ5mm)の数個のスリットを放電加工したものである。漏洩磁束検出プローブは、磁化器とセンサが一体となったもので、溶接線を横切るように試験体表面を非接触で走査させた。

欠陥が加工されてない試験体表面のプローブ走査では、熱影響部(HAZ)において欠陥状の大きなセンサ出力振幅が現れる(以下、振幅はセンサ出力振幅をいう)。溶接部の探傷においては、HAZによるこの大きな振幅が問題であり、HAZ近傍の欠陥は、HAZによる振幅に隠されてしまい識別が困難になる。

HAZによる振幅の発生は、溶接部の材質変化に起因するものであり、磁気特性とビッカース硬度測定との関係から、溶接線に直交するHAZ両端に磁極が発生していることが原因であることを明らかにした。また、このHAZによる振幅の影響は、欠陥による振幅を含む測定データから欠陥のないHAZ領域の振幅データを減算処理することで除去可能であり、これによりHAZ部の欠陥による振幅が抽出できることを明らかにした。

一方、この減算処理により、溶接部の探傷では新たな問題点のあることが明らかになった。HAZから数mm離れた母材側において、欠陥の振幅が全く現れない領域があり、そこから離れるに従って徐々に欠陥の振幅が現れてくるという現象である。これはHAZ両端にできた磁極に対応して母材側に小さな磁極が発生していることによる。この磁極上の欠陥は、その周辺が単一磁極の勢力下にあり、漏洩磁束を生じるためのN及びS極が欠陥両端面に発生し難い環境にあると推測される。ここで、母材側に発生する磁極の位置と大きさは、磁化の程度とHAZの大きさにより異なってくると考えられ、そこに発生する欠陥の寸法と漏洩磁束との関係は今後の課題として重要である。溶接部のMFLT法適用については報告例が少なく、今後さらに詳細な実験及び検討をしなければならない。

参考文献
植竹一藏、長井 寿:溶接部の漏洩磁束探傷試験に及ぼすHAZの影響、非破壊検査、
53-6、pp358-365、(2004)