「超微細フェライト-セメンタイト鋼の高速引張変形挙動」

兵庫県立大学   土田紀之

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 私は2000年4月から2003年9月までの3年半、物質・材料研究機構(NIMS)の超鉄鋼研究センターにポスドクとしてお世話になっておりました。
2003年10月より兵庫県立大学(当時、姫路工業大学)に助手として着任し、現在も鉄鋼材料を中心に強度特性について研究を行っております。
ここでは、NIMS在籍時に研究を行いました低炭素鋼より作製した超微細フェライト-セメンタイト鋼の高速引張試験結果についてご報告させて頂きます。

本研究は不純物を含んだ超微細鋼を自動車用鋼板として使用することを目標とし、その機械的特性を明らかにする手段として引張試験などで得られる「応力-ひずみ曲線」に注目、研究を行っている。現在までに、単純組成鋼である低炭素鋼JIS-SM490相当鋼を用いて、
フェライト粒径(D)の異なるフェライト-セメンタイト(FC)鋼(D=0.47、0.7、1.1、 1.5 ミクロン) ならびにフェライト-パーライト(FP)鋼(D=3.6、 9.8、 46.2 ミクロン)を作製し、常温以下における引張試験を行っている。  
(ミレニアムニュース2001年12月号、2002年11月号、2003年8月号参照)

今回は超微細FC鋼を用いて常温以下でひずみ速度1000/sの高速引張試験を行い、本実験結果とFP鋼を用いた同様の実験結果を含めて整理を行った。高速引張試験において、超微細FC鋼の変形応力は微細化に伴い増大したが、均一伸びや全伸びは減少した。静的、高速引張試験結果をもとに広いひずみ速度範囲で検討したところ、FC鋼の変形応力のひずみ速度依存性はFP鋼よりも高いことが明らかとなった。

FC鋼のひずみ速度1000 /sにおける変形応力は、静的引張試験結果同様ホール・ペッチ則に従い、この時、ホール・ペッチ式における傾きは、本検討で対象とした温度、ひずみ速度範囲ではすべて同じ値で整理できた。このことから、結晶粒微細化の影響は、温度やひずみ速度に依存しない非熱的応力成分のみに寄与すると考えられる。また、結晶粒微細化により吸収エネルギーは増大した。同じ微細化でも、材料の強度レベルにより強度に対する吸収エネルギー増大の割合は異なった。

超微細鋼は、高強度化、安全性、環境への影響などの観点から自動車用鋼板として期待されている。本結果は、特に衝突安全性に対する基礎データとして重要な役割を果たすものと思われる。

参考文献
1.N. Tsuchida, Y. Tomota and K. Nagai: Tetsu-to-Hagane, 90 (2004), 1043.
2.N. Tsuchida, Y. Tomota and K. Nagai: Tetsu-to-Hagane, 89 (2003), 1170.
3.竹士伊知郎:まてりあ, 43 (2004), 815.