「米国ミニミル調査 (Nucor訪問)」

超鉄鋼研究センター 花村年裕・小林能直・足立吉隆

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 リサイクル鉄の超鉄鋼化を目指すミレニアムプロジェクトの一環として、リサイクル鉄を使用する将来の鉄鋼プロセスを展望することを目的とし、薄スラブ鋳造を特徴とする米国のミニミル工場を2004年春に訪問した。

 現在の鉄鋼プロセスには主として次の3つがある。

1)高炉スラブ→連続鋳造→熱間圧延  (高炉メーカーの一貫製鉄プロセス方式)

2)高炉スラブ→ミニミル  (中国で実施が始まっている)

3)スクラップ(+高炉スラブ)→ミニミル (米国式)

 ここで、ミニミルとは50〜150mm厚の薄スラブ鋳造をスタートとする一貫した鋳造・圧延工程を意味する。今回は、この3)のプロセスを調査した。

[1]Nucor全体の概要

 米国一位の大鉄鋼製造業であり、年間売上$41億以上を誇る。Nucor全体の年間鉄鋼生産量は1200万tであり、1300万t/年のリサイクル材を消費する。従業員は9800人以上であり、14箇所で操業を行っている。場所はIndiana、 Arkansas、 South Carolina、 Alabama 他、米国内、多地域に渡っている。製造鋼材は炭素鋼、合金鋼−棒、薄板、厚板等である。

 会社の前身はOldsmobileとReo Motor Carsを創立した自動車製造会社Ransom E.Oldsであり、幾多の変遷を経て会社Oldsは the Nuclear Corporation of Americaになった。
Nuclear Corporationは1950年代と1960年代の原子力関係機器、電気機器メーカーとなった。1964年に倒産に直面したが、それを乗り越え、西ドイツで薄スラブ鋳造の革新が起こると、その技術を商品化する最初の「ミニミル」となり、現在、米国最大の電炉メーカーとして発展してきている。

[2]NUCOR/Herdford

 1998年Hertford County, North Carolinaにおける新製鉄所建設計画を発表し、Nucorにおいて重機械、鉄道、船舶、精錬所タンク用の、厚板鋼製造の最初の製鉄所となった。2000年10月に鋳造・圧延開始し、操業開始から製造に成功し、高級鋼鈑の製造を続けている。製造品は厚板の40−70kg級のものであり、用途は橋梁、自動車、貯蔵タンク(低圧)、建築用、クレーンビーム等である。70kg〜80kgハイテンは国内向けであり、テキサス等に出荷されている。ベセレヘム高炉メーカーに対して、36インチ大径管はベセルヘム高炉メーカー、小径管はNucorの棲み分けを行っている。

[3]NUCOR/Hickman

 1992年創設で、1992年より製造を開始している。スクラップ年間使用量は200万tで、ミシシッピ川の優位な位置であるBlytheville, Arkansasに占め、米国内の種々の地域に、船、トラックで商品を配送している。1999年に冷延設備を導入し、熱延、冷延、表面処理鋼板が中心で、圧延ミルでは熱延鋼鈑が供給可能である。薄板熱間圧延材、冷間圧延材、燐酸処理冷間圧延焼鈍材を製造し、50mm厚スラブから5-8mmt熱延材に仕上げている。

[4]NUCOR/Yamato

 1987年に日本の姫路市に本拠地をもつ電炉会社であるYamato Kogyo Companyと提携を結び発足した。提携の目標は中断面、広幅ビームを製造するミニミルを操業することである。Blytheville, Arkansasにあるミルで1987年より製造を開始している。鋳型はH型形状であり、H型に熱間圧延を行っている。

[5]所感

 米国のミニミルの技術課題として、鋼材中Cu量の増大化があげられる。現在のCu許容範囲は約0.35〜0.45%であり、0.50%Cu以上だと問題になるとのことである。これに対する対策は、Ni添加によりCuを金属間化合物化し無害化する方法と、銑鉄添加による希釈である。 また、近年、中国需要の高まり等により、スクラップの値上がりが著しく、以前はトンあたり原料1万円、加工1万円弱であったのが、原料2万円となり、加工のみでコスト低減を図るのは困難な状況となっている。これらは現在の日本におけるものと同様の技術課題であるが、日本と異なる米国のミニミルの優位点として、電気代が日本の半分近くであることがあげられる。日本では昼・夜の電気代が大きく異なり、電気代が安い夜間操業中心となっているが米国では昼・夜の電気代の違いが無く、24時間操業が通常となっていることが大きな特徴である。

 ミニミルで製造されるスラブ厚は150~50mmであり、スクラップ材→薄スラブ連続鋳造→保温炉→熱延をプロセスとする薄板製造を考えた場合、一貫製鉄プロセスの技術そのものといった印象が強い。そのため、ミニミルプロセスと高炉における連鋳(厚スラブ)−熱延プロセスとの競合の可能性がより高くなることが将来的に予測される。

 最後に今回の調査の結果、今後、我々が取り組むべき技術課題として、次の事柄が重要であることが認識された。すなわち、ミニミルにおいて、不純物元素問題あるいは製造プロセスでの操業上、形質上の問題は非常に高度に対応しているが、創製材、特にas-cast材料の組織、特性に関して、まだ、系統的な把握がなされていないようである。そのため、急冷凝固の特徴をもつ薄スラブ鋳造を中心に、加工までの全体のミニミルプロセスにおける種々のパラメーターと組織、材質との関係を解明する必要があると考えられる。