リンと結晶粒微細化

材料創製研究グループ 特別流動研究員  花村年裕

キーワード:リン、結晶粒微細化

 リンは固溶強化能の大きい元素ですが、低温靱性に悪影響を及ぼすため、添加量が厳密に制限されています。一方、結晶粒微細化は延性−靱性遷移温度を低下させるばかりか、リンの粒界偏析量を低下させる効果も期待できます。従って、かなりの結晶粒微細化が実現できれば、Pによる靱性低下を抑制できると考えられます。

また、鋼材へのリン添加の許容限を緩和できればリン除去のための精錬負荷を低減し、リンによる固溶強化を利用できるようになることが期待されます。

この考え方の正しさを検証するため、リン添加低炭素鋼の微細粒組織材を作り、引張強度やシャルピー衝撃特性を調べました。

まず、微細粒化により降伏応力で300MPa程度の上昇が認められました。そして、超微細粒材においても粗粒材とほぼ同等のリン添加による強化が確認されました。
すなわち、リン添加が1μm以下の微細領域においても強化能を持つことになります。

リン添加の問題点である脆性の克服については、熱延材で見られるリン添加による著しい脆性が、超微細粒化により延性−脆性遷移温度を低温側に大幅にシフトさせることで克服できることが分かりました。特に微細粒になると0.1%Pを添加しても高温側のエネルギーが250J以上に保持され、実用材として十分な靱性が確保されるます。

以上より、結晶粒径の微細化により、リン添加の短所である脆性を大幅に克服し、強度も大幅に上昇でき、実用材としての使用が期待できるようになりました。

参考文献:

T.Hanamura, T.Yamashita, O.Umezawa, S.Torizuka and K.Nagai, Improved Strength-and-Toughness Balance of P-added Low Carbon Steel through Ultrarefinement of Ferrite Grain Size CAMP-ISIJ Vol.14 (2001) No.3 p670