「鋼中不純物を利用した急冷凝固プロセス」

超鉄鋼研究センター 冶金グループ 小林 能直

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キーワード:不純物、急冷凝固、凝固組織、介在物、鉄スクラップ、リサイクルプロセス

 本プロジェクトでは、急冷凝固プロセスにおける鋼中不純物有効利用法を模索してきたが、これまでに凝固冷却速度と初期γ粒をはじめとする鋳造組織との関係、および不純物偏析や析出物の組織微細化、鋼の特性向上へ及ぼす影響を明らかにしてきた。1,2)

急冷凝固プロセスでは、現行の連続鋳造、薄スラブ連鋳から開発が進むストリップキャスティングまで0.1K/sから100K/s以上まで、実に3桁以上に及ぶ凝固冷却速度範囲がある。

鋳造組織のひとつである初期γ粒径と凝固速度の関係を、他の実験結果も合わせて調査すると、冷却速度T(K/s)とγ粒径dγ(μm)の対数の間には(1)式の直線関係が見られ、凝固後のγ粒の急激な成長を仮定した古典的粒成長モデルで説明できることがわかった。

dγ=1.52T^(-0.5) (1)

 またりんの添加によるγ粒成長開始温度の低下と界面エネルギーの低下を考慮に入れると、本プロジェクトで創製したりん入り100mm厚スラブと2mm厚ストリップ鋳片中のγ粒径も
古典的粒成長モデルでよく記述できることが分かった。すなわち、急冷凝固プロセスと不純物りんの鋳造組織微細化に及ぼす影響を個別に整理することができ、双方の効果を加算的に利用して、実プロセス設計時に役立てることができることが分かった。

 また、不純物含有鋼の特性を調べると、例えばりん入りストリップ材は、りんなし材に比較して強度延性バランスが改善されていることが分かった。この原因を調べるため、組織のTEM観察を行った結果、15nm〜20nmの非常に微細な析出物が存在していることがわかり、EDS解析の結果、Cu2-xSが主成分であることが判明した。市中スクラップを想定した鋼組成で、100ppm前後、40ppm前後のCu、Sを含有していたが、本来MnSの析出が期待される範囲でCu2-xSが優先的に析出しており、急冷凝固とりん添加の影響と考え解析を継続している。

りん入りストリップ鋳片を焼きなますと、強度は低下し、この差を説明するために固溶強化、結晶粒径、第二相の影響を考えた修正されたAshby-orowanの関係式を用いて検討した結果、結晶粒径の差による寄与より、析出物(第二相)の径の差による寄与が圧倒的におおきく、りん入りストリップ鋳造まま材の強度向上は、不純物系であるCu2-xSの非常に微細な析出が主要因となっていることがわかった。

これは、数十K/s以上の大きな冷却速度を実現する急冷凝固プロセスにおいて、
また従来不純物として除去されてきた元素を含んだ鋼において初めて見られた現象であり、不純物系の析出物が、初めてダイレクトに鋼特性の向上に役立つ例を見出したと考えている。今後、冷却速度を十分に変化させての鋳造組織形成の指導原理の確立、不純物化合物相の析出挙動の解明およびその利用、不純物種の範囲を広げた調査など、行うべきことはまだまだ多々あると認識している。

 これまでに得られた不純物有効利用鋼製造プロセスの可能性というシーズを、資源循環型社会におけるニーズにマッチした形で提言すべく、総合的なアプローチを続けていく必要性を強く感じている。3)

文献

1) 吉田直嗣、小林能直、長井寿:鉄と鋼, 90(2004), 198-205.

2) Z. Liu, Y. Kobayashi and K. Nagai: Mater. Trans. 45(2004), 479-487.

3) 小林能直, 長井寿: まてりあ, 43(2004) 9月号掲載予定