「低炭素鋼の異なる組織における有効結晶粒径とDBTTの関係

超鉄鋼研究センター 冶金グループ 花村年裕

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 超微細粒鋼の優れた靱性を解析するため、 同一組成の低炭素鋼からなる4種の組織、超微細フェライト/セメンタイト(Uf-F/C)、フェライト/パーライト(F/P)、焼入れ(Q)、焼入焼戻し(QT)を用い、有効結晶粒径(脆性き裂の進展単位)と延性−脆性遷移温度(DBTT)との関係を調べた。通常の強化機構である転位強化、析出物強化では降伏強度を増加させるとDBTTはプラス側に移行するのが通常であり、結晶粒微細化のみが、降伏強度を増加させると同時にDBTTを低温側に移行できる。このことは、DBTTの温度における降伏強度が脆性破壊応力であると仮定した場合、降伏強度を上昇させるより以上に、大幅に、脆性破壊強度を上昇させねば達成できないと推定される。

 ある組織における降伏強度の温度依存を基本にして、DBTTの温度における降伏強度がその組織における脆性破壊応力であると仮定することにより、有効結晶粒径とDBTTおよび降伏強度の温度依存性の関係から脆性破壊応力を求めることができる。更に、PickeringおよびGriffithの式の関係式から、破面単位である有効結晶粒径と脆性破壊応力が決定できれば表面エネルギーが決定できることになる。

 実験から求めた有効結晶粒径はUf-F/C、F/P、Q、QTの種々の組織で8、20、100、25ミクロンであった。これは有効結晶粒径がF/Pではフェライト粒径、Qでは旧オーステナイト粒径に相当するのに対し、QTではパケットサイズ、Uf-F/Cではbimodalの粒径分布中の大きいサイズに相当することによると考えられた。 
  

 更に、上記の方法で求めた脆性破壊応力では、同一組成の4種の組織中、Uf-F/Cが最も高い値を示すことが分かった。これは、同一組成の4種の異なる組織において、有効結晶粒径と脆性破壊応力から求めた表面エネルギーに違いが見られることによると考えられる。すなわち、F/P組織で7.7J/m2、QTおよびUf-F/C組織で34.6J/m2である。

[参考文献]

T.Hanamura, F.Yin and K.Nagai, ISIJ International, Vol.44 (2004) No.3, 610-617.