「脱酸生成物中不純物の熱力学」

超鉄鋼研究センター 冶金グループ 小林能直

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不純物含有鋼から微細な組織の創出または機械的性質を向上を目指し、これまで

  1. 急冷凝固および不純物の偏析を利用した鋳造γ粒径の抑制
  2. ナノ析出物を利用した機械的性質の向上

に関して研究が進められている。

一般にスクラップ鉄の溶解・脱酸過程における不純物を挙動を把握するために、脱酸生成物あるいは析出物中の不純物の熱力学的性質を知ることは重要であるが、これまでにあまり知られていない。

本研究では、これまで基本的な脱酸生成物であるMnO-SiO2系スラグ中のりんの熱力学的性質を求め、脱りん能の尺度としてのフォスフェイトキャパシティ(単位りん分圧、単位酸素分圧当たりのスラグ中りん濃度に相当)が1673〜1973Kの範囲で10の14.9〜18.6乗の間にあることを明らかにし、従来の知見どおり非常に低い脱りん能を持つため、脱酸過程でりんはほとんど鋼中に残留することを明らかにした。1)

また、鋼中のりんは凝固過程の偏析によりγ粒の微細化に寄与する2)ことが分かっているが、種々の要因を考えた際、最適値が存在した場合のりん濃度の調整が必要なケースを念頭におき、基本脱酸系に少量のCaOを添加した場合の脱りん能に及ぼす影響を調査し、添加量によって、りん分配比(メタル中りん濃度/スラグ中りん濃度)が10倍以上向上することがわかった。
また、第三成分として他の成分を添加した場合の影響も検討中である。

急冷凝固を利用することにより、不純物銅、硫黄が非常に微細なCuSとして析出し、機械的性質の向上に寄与することが明らかになってきている。3)
硫黄もりんと同じく従来より除去することに主眼が置かれ、不純物同士の化合物あるいは化合融体中の性質は明らかにされていない。

今後、不純物系化合物の熱力学的性質を調査し、析出物などの生成条件を明らかにするとともに、低融点化合物の模索を行っていく予定である。

文献

1)Y. Kobayashi, N. Yoshida and K. Nagai:ISIJ International, 44(2004), 21-26.

2)N. Yoshida O. Umezawa and K. Nagai: ISIJ International,43(2003), 348-357.

3)Z. Liu, Y.Kobayashi and K.Nagai:Materials Transactions, 45(2004) 1-9.