「Mn偏析を利用する組織制御の可能性」 超鉄鋼研究センター 冶金グループ 鳥塚史郎 連続鋳造スラブでは、2次デンドライトアーム間にMnの高濃度部分が存在します。このMnのミクロ偏析は、1200℃の再加熱によっても消滅することはありません。これは、オーステナイト(-Fe)中のMnの拡散が遅いためです。 私たちは、このMnのバンド状偏析が、から変態生成するの粒径にどのような影響を与えるのかを調べてきました。その背景として、近年、ミニミル、すなわち、薄スラブ(50-100mm)を用いた直送圧延プロセスが、熱延鋼板の新製造プロセスとして注目されていることがあげられます。 本プロセスは、熱延鋼板の低コスト製造プロセスとして魅力的です。しかし、材質の作り込みを考えた場合問題も予想されます。例えば、薄スラブであるため再結晶または未再結晶域で十分な圧下がとれないため、比較的粗大なないしパンケーキ状から変態によって粒組織が生成することになるわけですが、均一・微細組織生成には不利です。 したがって、不可避的に存在するMnバンドがの均一・微細化に効果があるとしたら、工業的に価値が高いと思われます。 われわれは、0.1C-0.16Si-0.58Mn(mass%)の組成の連続鋳造スラブから切り出した顕著なMnバンドを持つ材料をそのまま素材としたもの(a) と1350℃でMnを拡散処理しMnバンドがない素材(b) を準備し、加工熱処理後の粒径を比較することによって、その効果を検討しました。加工熱処理条件は、粒径を20-160ミクロンとし、未再結晶域である1093Kで、ひずみを2(圧下率で85%相当)まで与えました。 その結果、Mnバンドのある素材(a)はないもの(b)に比べ、ひずみによらず、微細な粒が得られることがわかりました(図1)。 例えば、Mnバンドがない材料(b)をひずみ2まで加工した場合の得られた粒径は9ミクロンですが、Mnバンドがある場合(a)は7ミクロンです。 粒の厚さをTHとすると、おおよそ (1) という関係が得られています1)。これは、生成した粒が、直近の粒界からすでに生成している粒を浸食して成長することができないことを示しています。 Mnバンドは、パンケーキ状の粒界と平行に存在しています。このMnバンドは、そのの安定性から、生成・成長する粒をブロックする効果を持つことが予想されます。粒界厚さ(間隔)THγとMnバンド間隔Lを等価なものとみなして、両者をあわせた平均間隔(ES; effective spacing)を求めると以下の式のように表すことができます。 (2) このESを用いると、Mnバンドの有無やひずみ、粒径によって変化していた粒径がおおよそ1本のバンドで整理できることがわかりました2)。このことは、Mnバンドが結果的には粒界と等価な作用をもって、微細化に寄与したものと考えることができます。 以上、Mnバンドを利用した組織制御の可能性を述べてきましたが、凝固組織制御と加工熱処理をつなぐひとつの方法であり、今後も凝固からの組織制御と位置づけ、研究を深めてゆきたいと考えております。
参考文献 1) 鳥塚史郎、長井寿 : パンケーキオーステナイト厚さと生成する粒界フェライト 厚さの関係 , 鉄と鋼, 88 (2002), 148-154. 2) T. Yamashita, S. Torizuka and K. Nagai : Effect of manganese segregation on fine-grained ferrite structure in low-carbon steel slabs, ISIJ International, 43 (2003) , 1833-1841. |