21世紀に19世紀のアイデアを

材料創製研究グループ 構造材料特別研究員  平田 耕一

キーワード:鉄鋼材料、ストリップ、ツインドラム式連鋳機、樹枝状凝固組織

 日本の鉄鋼産業は生産性と同時に品質の向上を両輪とした技術の進歩によってもたらされた物であることは周知の事実です。このため、現在の消費鉄鋼のほとんどは現状の製鉄設備と生産技術で賄われる事が可能です。

 しかし、これからのスクラップ鉄や鉄鉱石原料などの鉄源は低品位化傾向であり、従来どおりの高品質な鉄鋼材料を低品位原料から得るためには、多大なエネルギーとコストを要すると考えられます。
せめて汎用的な鉄鋼材料が省エネルギー・省コストで対応できれば、CO2排出量削減に始まる地球環境対策と合致したものとして、鉄鋼技術者は改めて存在感が示されるのではないでしょうか。

 これまで自然界で不安定な鉄を高品位な鋼として使用するために多大なエネルギーを要して作ることに不自然さを持たなかった鉄鋼技術者が、21世紀以降の世代に贈る地球の資源とエネルギーを大切にした循環型社会維持の一翼を担うべき時期に来ています。

 私は、ミレニアム研究プロジェクトの中でも、鉄鋼材料中の不純物を極力残留させ、それを特性として利用できないかと言う研究をしております。
この研究は、今までに諸先輩方の埋もれた技術でもあり、最近実用化されてきているツインドラム式連鋳技術を利用した不純物無害化原理の探索です。なお、ツインドラム式連鋳機とは数ミリの薄鋳片(ストリップ)を溶鋼から直接製造するもので、150年以上も昔ベッセマーにより提案されましたが、その凝固制御技術が金属研究者とその設備関係者の長年の努力でやっと日の目を見たものです。

 この設備を使った研究では、樹枝状凝固組織の1次、2次アーム間隔が従来それぞれ200μm、100μm以上であったのに対し、この設備の凝固特性である急冷を利用することによりそれぞれ1/5程度と細かくなっており、不純物(例としては燐)もこのアーム間隔に従い分散している事を確認しております。今後不純物の含有量による凝固安定性他課題も有りますが、この特徴を巧く生かし、加工熱処理と組み合わせて不純物が多くても使われる鉄鋼材料になるよう研究を進めて行きます。

 以上、雑感に終始したきらいが有りますが、私どもミレニアムプロジェクト関係者は次世代の鉄鋼材料の製造法に興味をお持ちの方々と共に、鉄鋼製造法を省エネルギーで環境に優しい観点で見直して行ければと考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。