「超微細フェライト-セメンタイト鋼の静的引張特性」

超鉄鋼研究センター 冶金グループ 土田紀之

 本研究では,不純物を含んだ超微細鋼を自動車鋼板として使用することを目標とし,自動車用鋼に必要な高速変形挙動について,材料の機械的特性を表す応力-ひずみ曲線に注目し,低速から高ひずみ速度域までを視野に入れ検討を行っている.

現在までに単純組成鋼である低炭素鋼JIS-SM490相当鋼を用いてフェライト粒径(D)の異なる3種類のフェライト-パーライト(FP)鋼(D=3.6, 9.8, 46.2 )を作製し,常温以下における静的ならびに高速引張試験を行った.

これらにより,FP鋼の引張変形応力におよぼす温度,ひずみ速度,フェライト粒径の影響に関し整理を行った.次に,同じくJIS-SM490相当鋼を用いてフェライト粒径が2 以下の超微細フェライト-セメンタイト(FC)鋼を作製し,常温以下において静的引張試験を行った.これらの結果より以下のことが明らかになった.

  1. FC鋼の応力-ひずみ曲線には,上降伏点,下降伏点とリューダース伸びが観察された.FC鋼の変形応力は,微細化に伴いホール・ペッチ則に従い増大し,各温度での均一伸びや全伸びは微細化に伴い減少した.

  2. FC鋼のリューダース変形領域以降の変形応力におよぼす温度とひずみ速度の影響は,フェライト粒径によらず等しいと判断できた.

  3. JIS-SM490相当鋼より作製されたFC鋼とFP鋼の変形応力の温度,ひずみ速度依存性を比較すると,両者はほぼ等しいと判断することができた.一方で,FC鋼とFP鋼の粒径依存性は異なり,ホール・ペッチ式における傾きkの値は,FP鋼よりもFC鋼の方が大きかった.

 今後は,同じくフェライト粒径2以下の超微細フェライト-セメンタイト鋼に関する高速変形挙動について明らかにすることを目的とし,引き続き検討を進める予定である.

参考文献:

  • 土田,小野,友田,長井:日本機械学会論文集A, 68 (2002), pp.1547-1552.

  • N. Tsuchida, Y. Tomota, and K. Nagai: ISIJ International, 42 (2002), No.12, pp.1594-1596.

  • 土田,友田,長井:鉄と鋼,89 (2003), No. 11, in press.