「凝固と加工熱処理の組み合わせ」から「形質同時設計学」へ
−今年度の研究の方向性について−

超鉄鋼研究センター長  長井 寿

キーワード:不純物、ニアネット鋳造、せん断付与圧延、二次加工容易性

「リサイクル鉄の超鉄鋼化」プロジェクトを始めてから3カ年が経過した。微細粒化することによって不純物影響を無害化し、あわよくば有益なものに変えてしまおうという発想からスタートしたが、このアイデアは着実に成長しつつあると自負する。

凝固時のミクロ偏析がその後の組織形成に及ぼす影響について基本的知見が整理されつつある。その影響の大きさ、方向性を不純物の有無が左右することが分かってきた。
ニアネット鋳造においては一般に急冷凝固となるが、急冷凝固組織の集合組織と不純物がそれに及ぼす影響についても興味を払いつつある。

多方向加工が材料内高歪み分布の均一化に有効であるという基本的な知見から始まり、現在はせん断付与圧延の効果について基礎的系統的検討を進める段階となった。さらに薄スラブ連鋳の模擬サンプル製造法を確立し、大きなせん断付与圧延が可能な大クロスロース圧延機によって、凝固ままサンプルをその場でせん断付与圧延する場合の組織形成を具体的に検討できる装置群の整備もようやく完成しつつある。

微細粒をベースとした不純物添加鋼の機械的性質についても基礎的なデータがかなり蓄積してきている。しっかりとまとまってから公表する方針だが、メリットとデメリット、メリットの限界、デメリットの克服方法についての考察などを経て、その後は結局は製品(部品)に二次加工する際に、加工容易性を発揮しつつしかも二次加工後もメリットを保持できるのかというのが現実的挑戦課題となっていくと感じている。
そのような特徴を素材と製品に同時に与えていくには、製造プロセスの自己点検が不可欠となろう。その結果生み出される境地は「形質同時設計学」とも名付けられるべき、新しいものつくり学の発展契機ではないだろうか。

理想的にはスクラップなどの低品位原料でもって国際競争力のある高付加価値ものづくりができれば、わが国の製造業の将来を盤石なものにすることに寄与できると夢想している。