ナノスケールの局所領域における変形挙動を解析する基礎技術の開発

材料基盤情報ステーション 疲労研究グループ 早川正夫

著者らの研究グループでは、原子間力顕微鏡(AFM)を利用したナノ組織解析1)、ナノインデンテーションによるナノ力学特性評価2)、これらを統合したナノ-メゾ−マクロ組織解析3)等のナノスケールでの評価・解析技術の開発に取組んできた。これら一連のナノ解析技術は、リサイクル鉄の研究においても積極的に活用しているが、それと同時に更なる技術開発にも取組む必要がある。

本研究では、AFMを利用したナノ組織解析の技術を発展させ、局所領域における微小塑性変形の定量的評価法を開発した。これまでの手法で、ナノレベルでの組織や力学特性に関する情報は取得できるが、その情報を実際の変形や破壊挙動に結びつけるには困難な面もあった。それに対して、本評価法は実際に荷重を負荷した材料のナノレベルでの変形挙動を、組織情報と対応させながら定量的に解析を行うもので、ナノ解析とマクロの変形挙動の間を補完するものである。以下、マルテンサイト鋼を例題として、本評価法を紹介する。

焼もどしラスマルテンサイト鋼は、旧γ粒、パケット、ブロック、ラスから構成され、その構造は微細で複雑である。そのため、降伏点近傍の微小な塑性変形を微細なマルテンサイト組織と対応して評価することは容易ではない。

Fig.1(a)-(d)は、673K焼もどしの1500MPa級低合金鋼JIS-SCM440において、塑性ひずみ0の変形前と塑性ひずみ0.2%、0.4%、0.6%の変形後の同じ場所における電解研磨面のAFM像である。図の水平方向が引張方向である。黒白のコントラストは表面高低差に対応している。コントラストが一様な帯状の領域がブロックに相当する。降伏点付近の塑性ひずみを負荷した場合、旧γ粒界に近接した大きなブロックで不均一変形が生じることが明らかになった。

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Fig.2は、Fig.1において不均一変形したブロックの最大幅を通り、近接の旧γ粒界に垂直となる断面で切断して得られるプロファイルである。塑性ひずみが0.2%、0.4%、0.6%と与えられるに従って、全体の凹凸は大きくなり、塑性変形が進行したことがわかる。その中で、不均一変形したブロックにおいては大きな段差が生じている。このような、不均一な変形の集積は、疲労や遅れ破壊に発展していくことが想像される。

Figure 2 クリックで拡大します

本研究の詳細については、日本鉄鋼協会春季講演大会において発表予定である。

文献

1) M.Hayakawa et.al. : Mater. Trans. 43 (2002) 1758-1766.

2) K.Miyahara et.al. : Metal & Mater. Trans. A 32A (2001) 761-768.

3) 蛭川寿ら : 日本機械学会論文集A編 68 (2002) 1473-1480.