凝固に始まる超鉄鋼づくり

材料創製研究グループ 構造材料特別研究員  吉田 直嗣

キーワード:凝固、超鉄鋼、連続鋳造、スラブ、P、フェライト安定化、γ粒

 20世紀の後半、材料ユーザーはより高性能のもの、高純度のものを要望し、メーカーはいかにして不純物を取除き高純度化を図るかに注力してその高清浄化技術も進歩しました。ところが、新世紀を迎え、地球環境を維持した循環型社会を構築することの重要性が高まりつつあります。材料の設計は、その特性の向上のみならず、製造過程での環境負荷を考慮することが極めて重要となってきました。もし、材料特性を低下させることなく、不純物を許容できれば、鉄鋼の精錬工程での熱エネルギー損失や副次的に発生するスラグを減らすことができます。ユーザーもオーバースペックなところは見直し、不純物を許容することでコスト(エネルギー)の節約ができます。

 物質・材料研究機構 材料研究所 NIMS/MEL (旧金材技研)では、新しいプロジェクトとして、「不純物の融合化研究(リサイクル鉄の超鉄鋼化)」を開始いたしました。本研究では、先行研究の結晶粒微細化理論に基づいた「超鉄鋼」研究での知見を基に、あえて不純物を除去せず、強度などの材料特性を向上させる合金元素としてこれを有効に利用する鋼材料の創製を目指しております。

 また、環境に配慮した材料設計は、たとえば連続鋳造から直送圧延を指向するなどプロセス設計と融合させることが重要と考えます。

 今回は鋼の不純物元素としてPに注目した研究を紹介致します。

 Pは、凝固偏析しやすく凝固割れ等製造過程で種々の問題があり、また、溶接性を阻害することから、従来研究では如何に脱Pするかに注力されてきました。しかし、本来固溶強化能の高い合金元素です。

 高濃度のPを含有する炭素鋼について、ラボスケールの試験機で連続鋳造スラブを試作しました。試験条件は次の通りです。

  • スラブサイズ:800mm幅×100mm厚×3m長
  • 鋳造速度  :0.8〜1.0 m/min
  • 鋼の基本組成:0.1C-0.15Si-0.6Mn(mass%)
  • Pの添加量 :0.01, 0.10 ,0.20mass%

 鋳造されたスラブ断面の前組織(旧γ組織)を観察した結果、高P材(0.10,0.20%P)では、低P(0.01%P)に比べ、γ粒径が約1/2に細粒化していることが判りました。この細粒化作用は、Pが強力なフェライト安定化元素であること、Pが樹枝状晶間に偏析することによって、スラブ材のγ単相温度域を低温側に狭めてγ粒成長を抑制したことによるものと推定しております。

 今後も、材料の溶解、凝固から加工熱処理に至るまでの一貫プロセス、すなわち、「凝固に始める超鉄鋼づくり」を目指しますので、皆様からの率直なご感想、ご意見を期待してお待ちしております。

 宜しくお願い致します。