古きをたずねて  -凝固γ粒の正体を探る-

超鉄鋼研究センター 冶金グループ 吉田直嗣

低炭素鋼の連続鋳造スラブのように凝固過程には粗大な柱状γ粒が生成することが知られている。粗大γ粒は連鋳や熱延時の表面割れ等の欠陥をもたらす場合があるばかりでなく、省工程を指向した直送圧延では、母相の粗大γ粒が最終組織の結晶粒微細化の弊害となる。したがって、加工前のγ組織は細粒化することが望ましい。

凝固γ粒は、γ単相域で急激に粗大化あるいは異常粒成長するといわれている。柱状晶はその短径(柱状晶の幅)でさえ、数mmに達する。しかしながら、粗大な凝固γ粒は、鉄鋼分野において極めて日常的かつ根本的現象にもかかわらず、凝固γ粒の成長オーダーについての定量的な検討例は非常に少なく、その正体には未だ多くの謎が残されている。

そこで、オールドスタイルではあるが、Burke(1949),Turnbull(1950)の粒成長式と速度定数、Hondros(1965)の粒界エネルギー値を用い、凝固に引き続く連続冷却過程に古典的粒成長モデルを適用した。見積もられた凝固γ粒径は2乗則に従うことが判明した。このことは、
低炭素鋼のγ粒が、純金属と同様、粒界移動律速(粒界拡散は格子拡散に比べ100倍以上速い)に従って非常に大きな速度で成長することを示す。

粒成長の抑制には、第2相のピンニングが有効である。一般にはピン止め粒として析出物を用いるが、凝固γ粒の場合、高温析出物でないと効果がなく、酸化物系一次介在物など系が限定されている。

我々の研究グループでは、りんを用いて凝固γ粒を微細化した。りんは強力なフェライト安定化作用を持つ。したがって、樹枝状晶間のりん濃化部位では低温までδ相が残留し、この残留δ相がγ粒成長を抑制する第2相として有効に作用する。また、この微細化効果は古典的粒成長モデルにより、定量化可能である。

文献

1)N.Yoshida, et al.,CAMP-ISIJ, 14(2001), 599.

2)N.Yoshida, et al.,CAMP-ISIJ, 15(2002), 897.