低炭素鋼のシャルピー衝撃特性に対するクロスロール圧延によるND面に平行な{100}面の配列崩れ効果

超鉄鋼研究センター 長井 寿
超鉄鋼研究センター 井上 忠信
材料基盤情報ステーション 古谷 佳之

平成12年度から始まったミレニアム関連プロジェクト「リサイクル鉄の超鉄鋼化」は、平成13年度で第1期を終了しました。第1期では、不純物元素の融合化技術と回生異物の融合化技術を柱として、研究を遂行しました。

得られた結果は下記のように纏められます。

  1. 溶解・脱酸・凝固プロセスにおけるリンの挙動の熱力学的データを取得した。

  2. 鋳造組織形成挙動を解析し、リンが粒径の減少、包晶反応の抑制などの効果を持つことを明らかにした。

  3. 最高0.2mass%P含有鋼のCCスラブの作成、ツインロールキャスタによるストリップ材の創製に成功した。

  4. Mn及びPのミクロ偏析が存在しても、鋳造後再加熱材では強加工条件でα粒組織が十分微細化した。

  5. 二方向温間圧延において、リンは大角粒界とγファイバーの発達を促進させることが分かった。

  6. クロスロール圧延は板面//{001}集合組織を崩し、衝撃エネルギー遷移温度を低くすることがわかった。

  7. 結晶粒微細化が鋼の変形応力を増大する一方、均一伸び、全伸びは減少することを明らかにした。

  8. 回転磁界と差動センサによる漏洩磁束探傷法を用い、鋼板の表面傷の高精度検出法を開発した。

  9. F/P組織、Uf-F/C組織、Q組織、QT組織の有効結晶粒径と強度-靭性バランスの関係を明らかにした。

  10. 国内外の自動車及び鉄鋼メーカー、リサイクル関連各社を訪問しリサイクル材の現状の調査を行った。

なお、第1期の詳細な研究結果に関しては今後HP上で公開する予定です。

今年度から始まる第2期(〜平成17年度)では、第1期で導入した設備と得られた知見を基に、自動車を想定目標とし、下記のような板材創製と棒材創製の2つのタスクフォース体制で行います。

  1. スクラップ原料による板材創製の新プロセス開発基盤タスクフォース(LWF-TF)

  2. スクラップ原料による棒材創製の新プロセス開発基盤タスクフォース(SR-TF)


1. スクラップ原料による板材創製の新プロセス開発基盤タスクフォース(LWF-TF)

Keywords:溶湯組成制御,凝固組織設計,急冷凝固,直送圧延,多方向加工,微細制御技術,集合組織制御,非破壊検査,機械的性質評価


タスクフォースリーダー  井上 忠信(いのうえ ただのぶ)

 スクラップ鉄に含まれる不純物元素を積極的に活用するという発想に基づいた材料創製技術の確立により、環境負荷を低減する資源循環を実現することを目的とし、スクラップ原料を出発材とした自動車用板材に適用できる高品質鋼板の創製プロセスに関する指導原理の確立及び特性発現の機構解明を行う。

 不純物含有材料から高強度高成形性板材を創製するプロセスに関して以下の研究テーマを柱として実施する。

  • 急冷凝固組織:γ粒組織の微細化と不純物の分散化
  • 新加工プロセス設計:組織制御パラメータの抽出と影響の明確化
  • 理想組織の探求:変形・破壊と組織因子の関係の明確化

 各テーマにおいて得られた知見・成果をリンクさせ“新製鋼圧延加工プロセス”を開発し、回生材を原料とするリサイクル鉄鋼材料の強度1.5倍化を達成させる。


2.スクラップ原料による棒材創製の新プロセス開発基盤タスクフォース(SR-TF)

Keywords:HDCR,強圧下・加工熱処理,中心偏析の回避,靭性,疲労特性


タスクフォースリーダー  古谷 佳之(ふるや よしゆき)

 自動車部品等を想定して、リサイクル原料を利用した強度レベル800〜1200MPaの高性能棒材を創製し、それを実現するための新プロセスを開発する。リサイクル原料として、?P及びSが不純物として問題となる低級鉄源、Sn及びCuが問題となるスクラップの2種類を考える。棒材実現の指標となる強度特性としては、靭性、疲労特性の2項目を主眼とし、それ以外の加工性等の特性に関しては必要に応じて順次とり入れる。

 高性能棒材を実現するために、プロセスの開発と特性の実現に関連する以下の2項目を研究の柱として実施する。

  1. 新プロセスの開発:不純物の中心偏析を回避することに重点を置き、HDCR (Hot Direct Caliber Rolling)による圧延、?強圧下・加工熱処理による細粒化及び不純物の均一化の2点を基本とした一貫プロセスの開発及びシミュレータによる実証を行う。

  2. 強度特性の実現:靭性及び疲労特性について、以下の目標を設定する。

    靭性:DBTTが寒冷地の気温(250K程度)以下。
    疲労:疲労限σWが引張強度σBに対してσW≧0.5σB。

この2つの目標に対し、P及びSに関しては0.1%程度の許容量(規格上限値:0.035%)を実現し、Sn及びCuに関しても同程度の許容量を目指す。