高不純物鋼と平衡する脱酸生成物中不純物の熱力学

材料創製研究グループ 小林 能直

キーワード:高りん溶鋼、脱酸、凝固、化学平衡、りん分配

 省資源、省エネルギー、環境負荷低減が叫ばれる社会背景にあって、資源循環型社会の構築が要望されております。加えて、十数年後には供給量が需要量を上回ると言われている鉄スクラップ量の増大も考えあわせると、リサイクル鉄の有効活用が急務であり、不純物を極力除去しないで高品質の鋼を創り込むプロセスの開発が望ましく、これまで当機構で種々の研究が行われてきました。

 このプロセスにおいて、溶解、脱酸及び凝固過程をより正確に把握するには、高不純物鋼と平衡する脱酸生成物の熱力学的性質が必要です。我々はまず鉄スクラップ中不純物としてりんを取り上げ、基本的な脱酸生成スラグであるMnO-SiO2系中のりんの熱力学的性質について調査しました。

 実験は、固体鉄または溶鉄とMnO-SiO2-FetO-P2O5系スラグを平衡させ、両相間のりんの分配比(濃度比)を測定するという方法で行い、スラグ中FetOと鉄で系の酸素分圧を制御することにより、スラグのりん吸収能を示す尺度であるフォスフェイトキャパシティ(単位りん分圧、単位酸素分圧あたりのスラグ中りん酸濃度に相当)を求めることができます。
その結果、1600C゜で約10の16乗、1400C゜で約10の18乗という値が得られ、従来より脱りん用に用いられてきたCaO系の値(約10の22〜24乗)に比べ、大変低い値となり、高りん鋼にMn-Si脱酸を適用した場合、りんはほとんどスラグ中に移行しないことが分かりました。すなわち鋼中に残存したりんを有効に活かすという本研究の必要性が再認識されたことになります。

 また、凝固時には、りんの偏析、過飽和酸素の影響などで、MnO-SiO2系介在物中にりんが流入する可能性がありますので、本実験で得た鋼の凝固点以下の温度のデータをもとに、介在物挙動について検討することができます。

 今後は、りんだけでなく、硫黄、銅などに、不純物の範囲を広げ、不純物溶鋼の溶解、脱酸、凝固プロセス中の不純物の挙動について、広く基礎的知見を得ていく予定です。

参考文献: 小林、吉田、長井: CAMP-ISIJ, vol.15(2002), p.131.