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名刺でもできる画期的な質量分析法の開発に成功

~質量分析の概念を根底から変える新原理に基づく流体熱力学質量分析 (AMA) を開発~

NIMSの研究チームは、従来法とは全く異なる質量分析法の開発に成功しました。

国立研究開発法人物質・材料研究機構 若手国際研究センター (ICYS) の柴弘太ICYS-MANA研究員と、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (MANA) ナノメカニカルセンサグループの吉川元起グループリーダーは、従来法とは全く異なる質量分析法の開発に成功しました。これは、紙切れの端を手で持ち、そこに一定流量の気体を吹き当てたときに生じる変形量 (たわみ) が、気体の分子量によって変わることを利用したもので、気体の分子量を大気中でリアルタイムに測定することが可能になります。一見当たり前にも思えるこの原理は、これまで全く報告されておらず、従来よりも極めて小型で安価な質量分析装置を実現する画期的な発見と考えられます。

質量分析とは、物質の分子量を調べる手法で、田中耕一博士のノーベル賞受賞でも話題となりました。従来、気体の分子量を測定するためには、まず真空中で、気体分子に電子を衝突させるなどして分子をイオン化し、そこに電場や磁場をかけて、分子量に応じて飛ぶ方向が変わることを利用して気体分子量の測定を行います。この基本原理は、最初の質量分析器が20世紀初頭に開発されて以来、田中博士の研究を含め現在に至るまで本質的に変わっていません。これを利用すると、気体の分子量を精密に測定することが可能ですが、原理的に「真空」や「イオン化」が必要であるため、装置の小型化が困難でした。

今回、研究グループは、従来の質量分析器とは全く異なる原理を発見し、この原理に基づいて、真空やイオン化を用いることなく、簡便に大気中でリアルタイムに気体分子量が測定できる新たな質量分析法を開発しました。その原理とは、気体分子が片方を固定された構造物に当たるとき、気体分子の重さに応じて構造物のたわみ方が異なるというものです。実際に、シリコン製のマイクロカンチレバーや紙製の名刺を用いて、そこに気体を吹き当てたときに生じる変形量 (たわみ) が、気体の分子量によって異なることを実験的に確認しました。下図では、手で持った名刺に対して気体を当てるだけで、そのたわみから分子量が決定できることを示しています。このたわみと気体分子量との関係について、流体力学・熱力学・構造力学を融合することで定式化に成功し、理論的にもこの原理が正しいことを証明しました。これを元に、本手法を「流体熱力学質量分析 (Aero-Thermo-Dynamic Mass Analysis, AMA) 」と命名しました。

今後、この成果に基づいて、携帯可能な小型質量分析デバイスを作製し、健康管理、環境モニタリング、防災など一般社会への応用のほか、ガスクロマトグラフィーとの融合や、工場でのプロセス管理など、産業界への展開も推進していきます。

本研究は 、科学研究費補助金若手研究 (A) (課題番号: 23685017) 、公益財団法人東電記念財団研究助成 (基礎研究、No. 13-005) の研究の一環として行われました。

本研究成果は、Scientific Reports誌オンライン版に2016年7月14日 (現地時間) に掲載されます。


A) 有限要素解析によるシミュレーション結果。MCLに対して下方向から気体試料を吹きかけている。
B) 様々な気体試料の分子量とMCLのたわみの関係。灰色の破線で示す解析解と赤丸の実験値、青丸のシミュレーション値が良く一致している。




本件に関するお問い合わせ

研究内容に関すること

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
若手国際研究センター
ICYS-MANA研究員

柴 弘太 (しば こうた)

Tel:029-851-3354 (ext.8620)

E-Mail:SHIBA.Kota=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

国立研究開発法人物質・材料研究機構
ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)

ナノメカニカルセンサグループ
グループリーダー

吉川 元起 (よしかわ げんき)

Tel:029-860-4749

E-Mail:YOSHIKAWA.Genki=nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

報道・広報に関すること

物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室

Tel:029-859-2026

Fax:029-859-2017

E-Mail:pressrelease=ml.nims.go.jp
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