超高速分光研究室
フェムト秒パルス光がどのようにしてコヒーレント光学フォノンを誘起するのか?その答えは必ずしも単純ではありません。
光のエネルギーが電子遷移に届かない非共鳴励起の場合は、コヒーレントフォノンは瞬間的誘導ラマン散乱 (ISRS)によってのみ励起されます [1]。
誘導過程は通常、エネルギーの差が光学フォノンのエネルギーに相当するような2色の光を用います。フェムト秒パルスには、不確定性関係からスペクトルがブロードバンドになるため、そのような2色の対が多数含まれています。
駆動力が時間のデルタ関数に近く、原子は平衡位置から動き出すため、結果として振動は(光励起の瞬間に振幅がゼロになる)サイン関数型になります。
フォノンモードが全対称モードでない場合、ISRS生成機構は振動振幅の励起光偏光依存性によって実験的に確かめることができます。
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電子正孔対を生成する共鳴励起下では、少なくとも3つの生成機構が提案されています。いずれの場合も、駆動力は時間のステップ関数になります。
1)(共鳴)瞬間的誘導ラマン散乱 [2,3]: 共鳴ラマン散乱と同じように、(電子との結合が強いフォノンモードについては)コヒーレントフォノン生成の効率も励起光のエネルギーが電子遷移と合致したときに飛躍的に増大します。
2)変位型励起 (DECP) : 電子との結合が特に強いモードについては、電子励起状態のポテンシャルエネルギー面の最小位置が、基底状態のそれから変位していることがあります。このような場合には、コヒーレントフォノンは励起状態上に生成し、振動振幅は光励起時に最大(コサイン型関数)となります。
これは例えばビスマスの全対称A1gモードの生成機構です。このモードはパイエルス歪みを介して電子系と強く結合しています[4]。一方同じビスマスでもEgモードはISRSによって生成することが確かめられています[5]。
3)過渡的空乏層電場遮蔽 (TDFS) : GaAsのような極性半導体にドープしてn型またはp型にした場合、光励起されたキャリアによって空乏層のバンドベンディングが遮蔽され、瞬間的に電場が変化することになります。これにともなって正負のイオンが一斉に逆方向に運動を始めることにより、コヒーレントフォノンが誘起されます[6]。
[1] Dhar et al. Chem. Rev. 94, 157 (1994).
[2] Stevens et al, Phys. Rev. B 65, 144304 (2002).
[3] Riffe and Sabbah, Phys. Rev. B 76, 085207 (2007).
[4] Zijlstra et al. Phys. Rev. B 74,0220301 (2006).
[5] Ishioka et al. J. Appl. Phys. 100, 093501 (2006).
[6] Dekorsy et al. in “Light Scattering in Solids VIII”, p. 169, Springer, Berlin (2000).
固体材料にフェムト秒パルス光を照射すると足並み(位相)の揃った原子の集団振動コヒーレントフォノンを誘起することができます。ここではコヒーレントフォノンがどのように生成し、やがて寿命が尽きていくかを紹介します。