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― 量子ビームセンター ―

放射光による物質・材料科学研究
− 高エネルギー光電子分光法と物質・材料科学 −
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量子ビームセンター
放射光解析グループ(SPring-8)
小林 啓介
吉川 英樹
田中 雅彦

 NIMSは世界最大でかつ最高性能を誇る大型放射光施設SPring-8専用ビームラインBL15XUを持っています。このビームラインは軟X線から20keVの硬X線までの広い領域をカバーする、他に比類のない特長を有しています。この特長を生かす高分解能の高エネルギー光電子分光法をNIMS専用ビームラインBL15XUに導入し、物質科学のための研究を強力に進める体制を整えています。
 かつてシリコン-LSIはSi基板、多結晶Si、SiO2、Al、など極めて少種類の材料で成り立っていました。今日ではゲート絶縁膜にはSiON、HfO2などの高誘電率材料、ゲート電極には金属シリサイド、WやMoなどの遷移金属、また配線にはCuが用いられ、Cuの拡散障壁のためにはTaNなどの窒化物、さらに多層配線の層間絶縁膜には低誘電率膜などの多彩な材料が使われるようになりました。これらに代表されるように、今日のデバイス開発には多種多様なナノ機能薄膜が必要とされます。
 ナノスケールの多層薄膜材料の開発には薄膜の電子状態や化学結合状態、界面における反応や相互拡散を調べる手段が必要となります。その必須な手段として光電子分光法がありますが、エネルギーの低い光を利用した従来の光電子分光法は表面に敏感すぎて物質の内部を見ることが出来ないという欠点を持っていました。光電子の運動エネルギーを大きくするとこの欠点を克服できます。そこで物質の内部を観察するための高エネルギー光電子分光技術が実用デバイスの解析に強く望まれています。例えば図1のように4.75keVのX線を使った光電子分光によって5nmの厚さの傾斜組成をした合金電極とSiO2界面のバンドのオフセットを測定することが可能になります。なお、バンドのオフセットとは、半導体デバイスの特性を支配する重要な物性値です。励起エネルギーを更に硬X線領域にまで上げれば5-10nm以上のナノ薄膜の光電子分光が可能になり、より複雑な多層構造を持つ実用デバイスの解析が可能になります。NIMSビームラインはこのために図2のような高分解能高スループットシステムを構築しつつあり、年内に運用を開始します。

図1
図2
図1   SiO2/Si上の傾斜組成を持つRuPt合金電極とSiO2界面でのバンドオフセットの値をRu 3d5/2光電子ピークのシフト量として求めたもの.X線のエネルギーは4.75keVを使用.
図2   硬X線光電子分光測定システム.


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