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特集
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― 量子ビームセンター ―

放射光を用いた
先端結晶解析
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量子ビームセンター
放射光解析グループ(SPring-8)
山本 昭二
田中 雅彦
道上 勇一 中澤 弘基

 原子レベルの精密な構造データ(原子座標、原子間距離等)は、物質の特性を評価および予測する上で最も基本となる重要な情報の一つです。これを得るための有力な手段がX線回折を利用した結晶構造解析(X線結晶構造解析)ですが、その適用に際しては当然のことながら種々の制約および限界が存在します。それらを克服するには測定(装置開発)と解析(新手法・プログラム開発)の両面から高度化を図ることが必要であると考えられます。
 私達は放射光施設SPring-8に保有するNIMS専用ビームラインBL-15XUにおいて世界最高レベルの高分解能X線回折装置を開発し、そのさらなる高機能化に努めています。最近、大半径回折用カメラの導入により高角度分解能と高効率性を兼ね備えた高速高精度回折データ収集システムの構築にも成功しました。一方、解析手法に関しては準結晶をはじめとする非周期結晶の解析を主な目的として、高次元結晶学(4次元以上の多次元空間に展開した構造を扱う結晶学)の確立と解析プログラムの開発に取り組んできました。さらに、その原理を応用した長周期構造の系統的な解析方法などを考案しました。こうした先端的な測定装置と解析手法を組み合わせることにより、従来は困難であった複雑な結晶構造の決定を行なうとともに、既存の材料に対してもより精密で迅速な解析を可能にすることを目指しています。
 最近解析を行なったGa4Tim-4O2m-2(図1)は酸化チタンの構造中に酸化ガリウム(β-Ga2O3)型の境界層が導入された一種の超格子とみなすことができます。こうした構造では対称性が低くなる一方、その周期は長いものでは数ナノメートルを超えます。このような長周期結晶の解析を行なうには良質な単結晶試料を育成して回折測定に用いることが不可欠と考えられていました。しかし、私達はBL-15XUの高分解能X線回折装置でデータ測定を行ない(図2)、高次元結晶学の原理を利用してこれを一種の変調構造として解析することにより、粉末回折法でもその構造データを精度よく求めることができることを実証しました。今後も測定および解析の両面から先端的な研究開発を推進することにより、ナノサイエンスの基盤技術としてのX線構造解析法の拡充に貢献していきたいと考えています。

図1
図2
図1   Ga4Tim-4O2m-2(m=17)の結晶構造. 境界層の間隔は約1.7ナノメートル.
図2   BL-15XUの高分解能X線回折装置によるGa4Tim-4O2m-2(m=17)粉末試料のプロファイル(一部のみ抜粋)および汎用X線回折装置との比較.前者ではd=3.1Å付近の2つのピークが明瞭に分離している.


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