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特集
新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― 量子ビームセンター ―

CO2削減とH2製造を同時に実現するプロセス
− くず鉄を活用した環境・エネルギー対策 −
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量子ビームセンター
放射光解析グループ
江場 宏美

 冬本番を前に使い捨てカイロを使い始めている方も多いのではないかと思います。使い捨てカイロは鉄がさびやすい、つまり酸化しやすいことに着目し、その際に発熱することを利用したもので、安価で便利な商品です。今回紹介する研究は二酸化炭素(CO2)を削減して地球温暖化を阻止することが目的ですから、温かくするカイロでは話が全く逆のようですが、実は、カイロと同じように鉄の酸化反応を利用することでCO2を集められることがわかりました。
 まずCO2を水に溶かします。するとソーダ水やビールでおなじみの炭酸水になります。
  CO2+H2OH2CO3
  H2CO3H++HCO32H++CO32−
この水素イオン(H+)と鉄(Fe)を反応させると酸化還元反応が起こります。つまり、
  Fe+2H+→Fe2++H2
ですので、最初の式と合わせると次式のようになり、炭酸鉄(FeCO3)が生成します。
  Fe+CO2+H2O→FeCO3+H2
この式から、鉄の酸化反応を利用してCO2の吸収・固定化ができ、また同時に水素ガス(H2)が得られることがわかります。
 上式の反応を実験によって確かめてみました。反応性を高めるために鉄を粉末状にして、室温においてCO2、水と反応させました。図は反応容器内のガス濃度の時間変化を分析した結果です。約15分でCO2濃度が半減し、それと入れ替わりに同体積のH2が発生していることがわかります。最終的にCO2は全て吸収されて、炭酸鉄の粉末が回収されました。炭酸鉄は天然に菱鉄鉱という名前で産出する鉄鉱石の一種です。反応式より鉄1kgあたりでは、約450L(790g)のCO2を吸収できることになり、現在使われている多くの吸収材料と比べて大きな吸収量です。水素製造法としても、従来室温で水素を製造できる技術はほとんどなく、また鉄1kgあたり約450L(36g)という数字は、現在利用できる水素タンクと比べてコンパクトかつ安全に、さらに水素吸蔵合金と比べても質量あたりで多量の水素を閉じ込めていることに相当するので期待できます。
 鉄は鉄鋼やステンレスなどの材料として広く用いられていますが、現在、膨大な量のくず鉄が国内において発生しており、リサイクルも難しくなっています。これを本プロセスの原料として用いることにすれば、緊急課題となっているCO2排出量の削減と、今後需要が拡大する新エネルギーH2の供給を廃棄物を利用して実行できることになり、産業界および社会への大きな波及効果が期待されます。

図
図    鉄によるCO2吸収とH2発生の時間変化(容積65mlの容器に、鉄0.4g、CO21×105 パスカル(大気圧)、水2mlを入れて反応開始).


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