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― 量子ビームセンター ―

薄膜・多層膜の刻々変化する
表面や埋もれた界面を見る
− QuickX線反射率法の開発 −
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量子ビ−ムセンタ−
放射光解析グループ
桜井 健次

 X線反射率法は、物質表面での全反射現象を利用して非破壊的に薄膜・多層膜の深さ方向の内部構造を原子スケールで計測できる手法で、各層ごとの密度、厚さあるいは各界面の凹凸、拡散等の情報が得られます。標準的な測定法では、精密な角度走査が必須であるため、研究対象が安定な系、あまり変化しない系に限られていましたが、私達は、試料も光学系もまったく動かすことなく測定を行なう技術の開発に成功しました。現在では、時々刻々変化する系の表面や埋もれた界面を観察することも可能になりつつあります。
 図1は、QuickX線反射率測定技術の原理を模式的に示したものです。ピンホールカメラでは、スクリーン上に光源の形状を倒立させた拡大像が得られますが、ピンホールの位置に試料を置き、全反射を生じさせるとスクリーン上には、さまざまな角度で反射したX線のプロファイルが一度に現れます。そこで、温度、圧力、光照射等、試料の環境パラメータを変化させながら、スクリーン上のデータを連続的に記録していくと、試料も光学系も動かすことなく、表面や界面の構造変化を追跡することができます。
 図2は、シリコン基板上の感温性ポリマー薄膜の温度を変化させながら、X線反射率測定を行なった結果を示しています。反射強度が急激に減少する角度を臨界角と呼びますが、この図では、臨界角が温度変化に対応して大きく変化していることがわかります。挿入図に示すとおり、同じ温度であっても、降温過程と昇温過程では同じ臨界角になるわけではなく、ヒステリシスが認められます。この結果は、基板とポリマー薄膜の界面での凝集により密度が著しく異なる層が出現し、あるいは消滅することにより生じていると考えられ、疎水性と親水性のスイッチング現象等、物性面との関連に関心が持たれます。
 当グループでは、リアルタイム測定をめざした技術開発を継続するとともに、構造中状態の不安定性のためにこれまで計測が容易ではないとされてきた多くの興味ある系の表面や、埋もれた界面の観察を試みたいと考えています。

図1
図2
図1   Quick X線反射率測定技術の原理(特許出願中).
図2   感温性ポリマー薄膜のX線反射率.


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