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特集
新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― 量子ビームセンター ―

中性子ビ−ムによる
   ナノ物質・材料開発
− 中性子で「もの」を観る −
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量子ビームセンター
中性子散乱グループ
北澤 英明 大沼 正人 泉 富士夫 長谷 正司
鈴木 博之 間宮 広明 辻井 直人 加藤 誠一 上田 茂典

 中性子は電荷を持たず、スピンを持つ粒子であるため、物質を構成している原子核の空間的位置や電子の持つスピン状態などを精密に調べる事が出来るという特徴を持っています。私達は、これまで培ったX線や中性子粉末回折用精密結晶構造解析技術・小角散乱技術、ナノ量子材料創製技術を活用し高度化することで、次世代IT社会や低環境負荷型社会の実現に必須の革新的新機能物質・材料を創製することを目指しています。
 具体的には、中性子や放射光を利用して(1)磁性ナノグラニュラ材料、構造材料などのナノ複相材料や(2)磁気冷凍材料、超伝導材料、電池材料等の高効率エネルギー変換材料の結晶・磁気構造などの原子サイズから微細集合組織などのマクロスケールまでの評価(マルチスケール評価)を行います。そして、階層構造における特徴的サイズの評価、磁性や超伝導の電子状態の解明、欠陥や動きうる原子の移動経路の解明等により、材料の革新的高度化・新材料創製へと導きます。
 例えば、Co-Pd-Si-Oナノグラニュラ軟磁性材料は、粒子径が数nmのCo等の磁性粒子が酸化物相に埋め込まれた微細構造を有する材料です。その大きな電気抵抗、大きな飽和磁化、大きな誘導磁気異方性によって、情報伝達の高密度化、高速度化のために重要となるギガヘルツ領域での利用が期待されています。私達はこの材料の大きな誘導磁気異方性の原因を探るため、中性子小角散乱法による研究を進めています。中性子小角散乱では局所磁化モーメントと散乱ベクトルのなす角が90°になる時に磁気散乱の寄与が最も大きくなり、散乱強度が最大となります。ところがナノグラニュラ軟磁性材料では予想に反して、局所磁化が配向している容易磁化方向に平行な方向に最大強度が出現しました(図参照)。このことから主磁化方向に90°回転した磁化成分が付随していることが明らかとなりました。さらに、外部磁場印加に伴い、この90°成分は主磁化成分とともに回転し、主磁化成分がほぼ外部磁場方向へと揃う21mT(異方性磁界)付近では、再びそれに平行な方向に散乱強度のピークが出現します。これらの特異な磁化挙動が、ナノグラニュラ材料の大きな異方性磁界出現の鍵となると考えて、現在、電気磁気材料研究所、日本原子力研究開発機構と共同で、より詳細な研究を進めています。

図
図    中性子散乱強度の磁場方位依存性. 波数q=0.6 nm−1は、実空間では約10nm程度の構造に対応. 0°、180°、360° は、磁化容易軸方向.


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