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― 量子ビームセンター ―

原子ビームリソグラフィー
− 準安定原子と自己組織化単分子膜
によるナノ加工 −
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量子ビームセンター
原子ビームグループ
山内 泰
倉橋 光紀 鈴木 拓

 高密度集積半導体素子を大量生産するのに適したリソグラフィーによる微細加工には、その創成期から光が露光源として使われ、ポリメチルメタアクリレートのような高分子が厚膜レジストに用いられてきました。リソグラフィーの微細加工の限界には様々な要因がありますが、その多くは解決され、原理的な要因である光の回折限界にまで達しています。回折限界は波長に依存しますから、今では波長の短い紫外線が用いられるようになっています。さらに短波長の軟X線あるいは電子線等が研究され、試験的少量生産への利用も行われています。しかし、大量生産における微細化を将来にわたって進めるには、露光源の回折限界のみならず透過性や近接効果の克服や加工幅に対応した薄膜レジストの導入などの課題を抜本的に解決しなければなりません。
 これに対して、透過性の高いX線などの他の量子ビームと相補的な性質を持つ熱速度(100meV)の原子ビームは、透過の問題がなく最表面に敏感であり、質量が大きいためド・ブロイ波長が0.1nm程度と短く、また、原子が電気的に中性であるため荷電粒子ビームの場合に問題となる空間電荷効果による収束限界もありません。私達は、良く制御された準安定ヘリウム原子ビームを露光源とし、従来の厚膜レジストに替わる極薄レジストとして自己組織化単分子膜を用いた新しいリソグラフィー技術の開発を行っています。
 これまでの金薄膜中間層を用いずに半導体を直接加工する実際的な段階に進んでいます。 図のように、加工対象であるSi(111)基板の表面酸化物を取り除いて水素原子で終端しておいてからシラン分子(CH3(CH2)17SiCl3, OTS)を並べて自己組織化単分子膜(SAM)を表面に直接形成してレジストとします。この単分子膜レジストに透過型のパターンマスクを通過した熱運動レベルの低速の準安定ヘリウム原子ビームを真空中で照射します。照射後、アルカリ溶液によるエッチングを施すと表紙図下に示すパターンが形成されました。パターンの寸法は5μmですが、右側のグラフ中、赤▽で示した段差部の巾が1〜2画素に収まり、100nm以下のエッジ分解能が達成されています。
 準安定原子が最表面の電子を選択的に取り去ることにより、分子内の結合の切断や架橋反応が引き起こされます。このため照射部と非照射部でレジストのエッチング耐性に差が生じていると考えられますが、詳細の解明はさらなる高分解能化(10nmレベル)を含め今後の研究課題です。
 この他、私達は原子やイオンのスピンを制御した量子ビームの技術開発を行っています。この技術により、最表面電子のスピンの振る舞いを強磁場下で、あるいは元素別に、明らかにすることを目指しています。

図
図    原子ビームリソグラフィーの工程.


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