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― ナノ計測センター ―

超高速の光応答計測
− 47THzフォノンの時間分解観測に成功 −
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ナノ計測センター 
超高速現象計測グループ
北島 正弘
石岡 邦江

 光は質量を持つ物質には拘わらないイメージがありますが、現実には光ほど物質を活性化させるものはありません。植物の光合成は勿論、私達の網膜が光を捉えるのも、ソーラーパネルが発電するのも、物質中の電子が光を吸収し、そのエネルギーが物質の他の構成要素原子と原子の間の化学結合や原子の運動に分け与えられていく過程、すなわち光応答です。この光応答は非常に速く、ナノ秒やピコ秒の時間領域で起こります。ナノメートル単位の半導体や金属の構造体で構成される電子・光デバイスに要求される条件は、光や電気信号に対する応答が速いことで、実用化に向けて超高速光応答を正確に評価する計測技術がますます重要になっています。
 私達はフェムト秒(1秒の1000兆分の1)パルスレーザー光を使って、半導体や金属などの固体の中で起こる超高速の光応答過程を研究しています。光を吸収したホットな電子は、そのエネルギーを原子の集団振動(フォノン)に分け与えることにより冷えていくため、電子とフォノンの相互作用は、固体の光応答速度を決める鍵となります。例えば、カーボンの一形態であるグラファイトは、他の導電性物質に比べ、より高速に電子が冷却されます。私達はフォノンの超高速挙動を観測することにより、この性質が非平衡電子とフォノンの強い相互作用によるものであることを解明しました(図1、2)。このような超高速現象を追うためには、レーザーパルスが短くなければならないのは勿論、物質の光学的性質のわずかな変化を高感度に検出する技術が必要になります。今後この技術を用いて、ダイヤモンドの物性や、異常な電気特性でにわかに注目を集めているグラフェン(グラファイトの一層)等のナノ物質の超高速光応答の解明に取り組みます。本研究はピッツバーグ大学、ペテック教授との共同研究です。

図1
図2
図1  グラファイトの反射率の時間変化(挿入は拡大図). 周期770フェムト秒の面間ずれと21フェムト秒の面内C-C伸縮の2つのフォノンに対応する振動が観測される.
図2  面内C-C伸縮振動数(THz=1012Hz)の時間依存性.非平衡で異方的な電子分布との強い相互作用のために、振動数は光励起直後に増大するが、電子の緩和にともなって500フェムト秒程度で平衡値に戻る.


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