NIMS NOW


研究最先端

形が変わるフラーレン超分子
− あらゆる形のナノテク部品を自由自在に作製 −
PHOTO
ナノ有機センター
超分子グループ
中西 尚志

 炭素原子が60個サッカーボール状に繋がったフラーレン、それが筒状に伸びたカーボンナノチューブに代表されるナノカーボンは、電子材料、電極素材、触媒担体、生体材料など、多くの分野において応用が期待される次世代材料と言われています。しかし、これらナノカーボンをそのままの形状、且つナノメーターサイズで直接取り扱うのは非常に困難であり、実際の応用可能な材料としての取り扱いには如何に意図的な形状、適当なサイズの構造を容易に作製できるかが鍵となります。
 これまでのフラーレンを素材とした既存の方法では、再現性に乏しく、ある特定の形状を作製するために特定のフラーレン誘導体を個別に準備する必要がありました。今回、フラーレンに長鎖アルキル基を3本生やした比較的単純な構造のフラーレン誘導体(図(a))を合成し、アルコールまたはエーテル系の溶媒中にこの分子を溶かし込む条件を変えるだけで、フラーレンを素材とした多様な形状の組織体を自由自在に操る加工技術を開発しました。
 作製できる形状をいくつか紹介します。先ずフラーレン誘導体は、自己組織化的にアルキル鎖部分がイレコ構造の配置を採った二分子膜構造を基礎構造として形成します(図(b))。この基礎構造をユニットとして、球状構造(ベシクル)(表紙写真下(a))、一次元に伸びたテープ状のファイバー構造(表紙写真下(b))、膜厚わずか数ナノメートルの円盤状(表紙写真下(c))、貝殻のようなコーン構造(先端に50nm程度の細孔)(図(c)、(d)、表紙写真下(d))などが得られます。単一のフラーレンを素材として、溶媒を変えるだけで様々なナノカーボン素材が自由自在に、且つ非常に簡便・低価格で作製できる革新的な技術だと言えます。興味深いことに、作製されたフラーレン超分子組織体の構造はそれぞれ、フラーレン(0次元)、カーボンナノチューブ(1次元)、グラファイトシート(2次元)、カーボンナノホーン(3次元)のナノカーボン素材に対応する次元規制型カーボン新素材とも言えます。
 フラーレン元来の導電性やその他の特性を生かすことで、球状構造は薬物の運搬や金属粒子のカプセルに、ファイバー構造は電子配線に、円盤構造はナノサイズのコンデンサに、コーン構造はウイルスなどバイオマテリアルのサイズ選択、比較的大きな比表面積を利用した触媒の担体などの応用が期待でき、現在研究を進めています。

図
図  (a)合成したフラーレン誘導体(赤:酸素、黒:炭素、紺:窒素、水色:水素)、(b)自己組織化二分子膜構造、(c)超分子組織化コーン構造のSEM像、(d)コーン構造のTEM像.


line
トップページへ