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研究最先端

生体外において自由な形で
軟骨を「再生」することに成功
− 変形性関節症など軟骨疾患の
     テーラーメード医療に向けて −
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生体材料センター
高次機能生体材料グループ
植村 寿公
大藪 淑美

 変形性関節症などの軟骨疾患の治療法として、軟骨再生技術の開発とその臨床応用が期待されています。しかし、軟骨組織は他の組織と異なり、生体外での細胞培養の際に生じる障害によって培養組織が壊死してしまうため、広範囲の軟骨欠損に応用できる大型の軟骨組織の再生技術は未だ確立されていません。私達は、従来の軟骨再生技術における問題点を解決し、大型の
3次元軟骨組織の再生に応用するため、細胞障害の少ない微小重力環境を模倣したRWV(rotating wall vessel)バイオリアクター(図1)を用い、コラーゲンスポンジ(図2)を細胞足場材料として骨髄由来間葉系幹細胞を培養することにより、新しい軟骨再生技術を開発しました。患者自身の骨髄に由来する間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、靭帯などの組織に分化する多分化能をもち、適切な分化誘導因子のもとで3次元培養を行うと軟骨組織に分化しますが、生体外での通常の培養では、細胞は地球重力によってシャーレの底に沈み、2次元シートしか作らず軟骨細胞の形質を失います。そこで、無重力に近い微小重力環境での3次元培養を実現するために開発された、RWVバイオリアクターによる培養方法を用いました。RWVは、ガス交換膜を裏側に備えた円筒形のベッセルが水平軸を中心に回転することにより、細胞に及ぼす重力の方向を絶えず変化させ、時間平均すると、地上重力の100分の1という微小重力環境を作り出すことができます。さらに、様々な形状のコラーゲンスポンジを細胞足場材料として用いることにより組織の形状が制御でき(表紙写真上)、足場材料を用いない場合に比べ、1.5倍程度の高強度軟骨組織を構築することに成功しました。今後、臨床応用に向けた技術開発を進めていきます。

図1
図2
図1  RWVバイオリアクター.
図2  A)成形していないコラーゲンスポンジ.
B)Aの走査型電子顕微鏡(SEM)像.


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