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研究最先端

光導波路中のナノスケール欠陥の観察に成功
− 光集積回路の検査がナノスケールで可能に −
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量子ドットセンター
ナノフォトニクスグループ
三井 正

 光集積回路は、光ファイバー間の経路切り替えを電気信号に置き換えることなく光信号のまま行う素子で、情報通信ネットワークの高速化・大容量化のためにその発展が期待されています。
しかし、その検査のためには外観を見るだけでは不十分で、実際にどのように光が流れているか、異常は無いか、ということを直接調べる必要があります。特に最近では集積度や精度が向上し、ナノスケールの欠陥の影響も無視できなくなってきています。私達は、近接場光学顕微鏡(NSOM)に直線偏光成分を分離して観察する機能を持たせ、光集積回路内部の微小な欠陥や微弱な歪みが光の伝播に与える影響を調べています。
 NSOMは走査型プローブ顕微鏡の一種で、先端を細く尖らせた光ファイバー(直径50nm)を試料表面10nmまで接近させ、わずかに漏れてくる光を検出することでナノスケールの光の強度分布を測定する装置です。私達は偏光保持型光ファイバーという特殊な光ファイバーを用いることで、偏光成分を分離した観察に成功しました(図1)。
 今回、有機材料でできた光導波路の近くに圧痕を打ち込み、その影響を調べました(圧痕の深さは約8μm)。図2(a)は普通の光学顕微鏡像、(b)は四角で示した部分の表面高さ像、(c)と(d)は(b)と同じ領域の偏光NSOM像を表しています。光導波路は図2(c)(d)に白いコントラストで表わされている部分で、光は橙色の矢印で示されるとおり、左から右に伝播しています。入射光は垂直偏光です()。光導波路内の圧痕に遠い側Aと近い側Bのコントラストに注目すると、(c)と(d)ではAとBの部分で強度が反転していることがわかります。このコントラストは、(c)と(d)でそれぞれ水色と赤色で示された直線偏光成分の強度分布を示しています。(c)では垂直偏光(図1中 緑色)の一部が水平偏光(水色)に変化し、検出されています。この原因として、応力印加により生じた有機分子鎖のナノスケールの乱れが光の散乱を生じ、垂直偏光を水平偏光に変えているためと考えています。今回開発した偏光NSOMを用いた光導波路の検査法は、より高性能な光集積回路の実現へ道を拓くものと私達は考えています。

図1
図2
図1  近接場光学顕微鏡を用いた光導波路の観察.
図2  (a) 光導波路の光学顕微鏡像、(b) 圧痕周囲における有機光導波路の表面高さ像、(c)(d) 同じ領域の偏光NSOM像.


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