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特集
新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― 生体材料センター ―

ナノバイオテクノロジーを基盤とした
バイオチップの研究開発
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生体材料センター
バイオセンシンググループ
宮原 裕二
花方 信孝
坂田 利弥

 2003年4月にヒトゲノムの全塩基配列の解読が完了し、明らかとなった塩基配列を利用することで、塩基配列のどの部分がどう違えば(遺伝子多型)、どういう個人差(例えば、病気のかかり易さ)に結びつくのかを明らかにするための研究(遺伝子多型解析)が世界中で盛んに行われています。
 その中で私達は、より簡単に正確に早く個々人の遺伝子多型を解析するバイオチップ、つまりDNAチップの研究開発に取り組んでいます。現在、様々な手法・原理がDNAチップに使われていますが、私達のグループでは世界でもいち早く電界効果トランジスタを利用した半導体ナノテクノロジーの導入を試みています(図1)。この遺伝子トランジスタの特徴は、DNAのような電荷を持った分子の検出に有効であり、その電荷の変化を電気シグナルとして直接モニタリングできることです。さらに、従来の半導体加工技術を利用すれば、小型でかつ機能を集積化した簡易性の高いチップにすることが容易です。
 私達が研究開発を進めている遺伝子トランジスタでは、様々なDNA分子認識反応の検出が可能であり、最近ではDNAの塩基配列を一つずつ検出でき、遺伝子多型を解析するツールとして期待しています。図2には、遺伝子トランジスタによるDNA配列解析結果を示しています。DNAの個々の塩基となる基質(C, A, G, T)を順番にポリメラーゼという酵素とともに導入していくと、伸長反応する塩基配列に応じて電気シグナルが変化します。図2上部のDNA塩基配列では、9塩基のプローブDNAと、それと相補的な配列を有する17塩基のターゲットDNAとの間で二重鎖構造ができ、残りの8塩基に相当するTGCACGGG(青色部)の塩基配列を矢印の方向に伸長反応させていくと、電気シグナルの変化量から、グラフ中に示すように塩基配列を認識することができます。
 また、ヒトやマウスなどのほぼすべての遺伝子をスライドガラス上に搭載した集積化DNAチップによる網羅的な遺伝子発現解析により、生体材料が細胞に及ぼす影響を評価するためのバイオインフォマティクスにも取り組んでいます。この技術により、材料を生体内に移植したときの影響を、動物実験を行うことなく予測することが可能となります。さらに、集積化DNAチップによって、生体材料の表面構造や化学的性質の違いにより発現量が変動する遺伝子群を容易に見出すことができるため、生体材料と細胞のインターフェイスにおける分子レベルの現象を予測することができます。ナノテクノロジーとバイオテクノロジー、そしてIT技術を融合した材料特性と、遺伝子発現に関する統合化データベースを構築することによって、従来の“現象論的・経験的な生体材料開発”から脱却した“生体反応の視点から捉えた新しい生体材料開発プロセスの理論体系・技術の確立”を目指しています。

図1
図2
図1  遺伝子トランジスタ.
図2  遺伝子トランジスタによるDNA配列解析.


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