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― 生体材料センター ―

高分子系生体材料の創製と
高次機能発現制御に関する研究
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生体材料センター
高次機能生体材料グループ
小林 尚俊 田口 哲志

 細胞周囲には、生体内のホメオスタシス(恒常性)を維持しているナノ構造制御された分子集合体が存在し、細胞外マトリックス(ECM)とよばれています。ECMは、骨などの硬組織を除いて、ほとんどがコラーゲン等の高分子から形成されています。そのため、これまでにECM模倣材料と細胞との組み合わせにより、機能不全に陥った生体組織が再建されています。軟骨、骨、皮膚等、比較的単純な生体組織では、既に一部臨床応用が始まっています。一方、肝臓、膵臓など複数の細胞が存在し、しかも血管が必要な臓器再生は、まだ研究が始まったばかりです。そのため、ナノ構造からミクロ・マクロ構造まで制御された高分子系生体材料が必要となります。本稿では、(1)血管新生化のためのナノファイバーシートと(2)細胞−細胞間の接着剤について紹介します。
 (1)を達成するために再生組織を生体内で早期に機能させ、しかも長期安定にするため、エレクトロスピニング法により形状を保持するポリグリコール酸(PGA)と細胞接着性を有するコラーゲンの混紡ナノファイバーシートを開発しました(図1(a))。この方法は、高分子溶液に電圧を印加し、溶液のジェットを噴射してファイバーを形成する方法です。調製した材料の血管新生能を調べると、ナノファイバーに血管新生因子(繊維芽細胞増殖因子(FGF))を吸着させた群において、血管内皮細胞の接着が確認されました(図1(b))。遺伝子発現について評価したところ、ナノファイバーと接した血管内皮細胞は、血管新生因子関連の遺伝子が高くなることが明らかになりました。
 一方、細胞−細胞間を接合する接着剤の研究も進めています。複数の細胞が細胞−細胞間相互作用により凝集塊となった「スフェロイド」は、単独の細胞と比べ細胞機能が向上することが知られています。現行のスフェロイド形成法には、特殊な装置や技術が必要である等の問題があります。そこで、簡便かつ短時間でスフェロイドを形成する高分子架橋剤(接着剤)を合成しました。この接着剤は、図2(a)に示すように両末端に脂質分子などの疎水基を有し、酵素分解性を有する構造を持っています。この接着剤を細胞に添加したところ、図2(b)に示すようなスフェロイドが得られました。これは、細胞膜を構成している脂質2分子膜に接着剤の疎水基がアンカーとして作用し、細胞−細胞間を物理的に架橋したためであると考えられます(図2(c))。この接着剤によるスフェロイド形成において、接着剤/細胞濃度、分子量、血清の有無等により、形成される速度と得られるスフェロイドのサイズが変化することが明らかになりました。現在、形成したスフェロイドの生化学的評価を行い、医学応用に向けた基礎的なデータを取得しています。

図1
図1  (a)調製したナノファイバーシート、(b)細胞が接着・侵入している様子.

図2
図2  (a)合成した接着剤の構造、(b)スフェロイド、(c)凝集メカニズム.


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