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特集
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― 生体材料センター ―

ナノ組織化したセラミックス系
生体材料に関する研究
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生体材料センター
ナノ組織化生体材料グループ
立石 哲也
菊池 正紀 末次 寧 生駒 俊之

 私達の体の細胞の多くは、多糖やタンパク質などでできた「足場」に囲まれて生きており、この足場は細胞外マトリックスと呼ばれています。細胞は、分化・増殖して皮膚や血管などの組織を構築する際に、細胞外マトリックスの物理化学的性質を認識して、その影響を強く受けていると考えられています。例えば骨の細胞外マトリックスは、主にリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトと、線維性タンパク質のコラーゲンを構成成分とするナノ複合体です。この物質は、骨の硬くてしなやかな力学的特性を担い、生体に不可欠な元素であるカルシウムやリンを貯蔵するだけでなく、骨の細胞が正常に活動する環境を与える役割も果たしているのです。
 私達は、生体内で骨ができる条件を試験管内で再現し、骨マトリックスによく類似したナノ構造を持つアパタイト/コラーゲン複合体を人工的に合成することに成功しました(図)。この材料の中では、アパタイト結晶とコラーゲン線維が骨と同じようにナノレベルで整列しています。電子線回折という方法で調べると、アパタイト結晶の002と呼ばれる方位を示す円弧の中心からの方向が、電子顕微鏡写真のコラーゲン線維の方向と一致していることが分かります。この複合体を生体骨中に埋入すると、細胞に骨そのものとして認識され、代謝されて徐々に本物の骨に置き換わっていきます。
 損傷した組織を回復する新しい医療として期待されている再生医工学の実用化のためには、細胞の増殖・分化・誘導を制御する足場材料の開発が不可欠です。ナノ組織化生体材料グループでは、従来の生体材料の開発で見落とされていたナノ形態に注目し、これを制御して細胞機能を発現させることができるようなセラミックス系材料を開発することにより、再生医工学などの新しい医療技術の発展に貢献したいと考えています(表紙写真上)。

図
図  アパタイト/コラーゲン複合体の生体反応.骨を溶かす破骨細胞と骨を作る骨芽細胞により、自分自身
の骨に造り替えられていきます.上の図は複合体の透過電子顕微鏡像と電子線回折像.


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