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特集
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― 生体材料センター ―

「生体材料への様々な取り組み」
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生体材料センター
センター長
立石 哲也

 再生医工学において必要不可欠な3要素は、細胞ソース、細胞担体、細胞刺激因子といわれています(図1)。細胞、材料、刺激因子が整えば再生医療が達成されるわけではありません。細胞に基盤をおく医療用具すなわち細胞デバイスをデザインし、安全性が保たれた環境下で無菌的、無人的に製造し、デバイスの活性度を保ちながら輸送する手段を確保するためには工学的設計技術が必要であり、細胞デバイスを大量生産するためには細胞工学の助けが必要です。また目的とする組織、臓器にいたるまで細胞の分化・誘導や増殖を制御するためには、ナノバイオテクノロジーを活用した多機能高次細胞基盤材料の設計・製造や細胞集団の間に存在する遺伝子やたんぱく情報をモニターするバイオインフォマティックスが必要となります。何よりも、生体外で再生された組織が体内に移植された後、予定した機能を発揮するためには、再生組織が十分な強度、力学的特性や良好な生化学的特性を有するかどうかを予め無侵襲的に評価し、保障しなければなりません。これは理工学が最も得意とする分野であります。つまり、サイエンスとテクノロジー、および医学が融合してはじめて再生医工学が成立するのです。
 日本の工学者は医療技術の研究開発に部分的には大変良く貢献してきたとはいえ、医療産業の振興に至るまで主体的に取り組んできたかと言うとはなはだ疑わしいと言わざるを得ません。ヒトの体内深部に埋め込むタイプの人工組織、人工臓器に関してはその大部分を欧米からの輸入に依存せざるを得ないのが現状です。医学と工学とがそれぞれ独自の文化を固持し、方法論的、組織体制的に互いに融合できなかったことにも原因があると考えられます。もちろんリスクの大きい段階をベンチャーが担うという多様で柔軟なアメリカ型の企業進化体制ができていないこと、国の縦割り行政や単年度主義予算の弊害等要因はいくつか考えられます。省庁、医と工,産と学の間に厳然として存在する文化的障壁をなくす努力を私達はしてきたのでしょうか。21世紀の花形医療産業となるであろう再生医療や遺伝子治療においてこのような失敗は二度と許されません(図2)。
 生体材料センターでは、国民が安全・健康で快適に暮らせる社会の実現に向けて、再生医療、ナノ薬物伝達システム(ナノDDS)等の次世代医療技術やバイオエレクトロニクスなどの安全性評価技術の進展に貢献することを目指しています。また、医工連携、産学独共同はもちろんのこと、全国規模で専門の融合を図る医工連携ネットワークの構築、業種・地域の産業融合を図る医療産業ハイウェイ構想の実現を達成すべく努力しています。

図1
図2
図1  再生医療工学に必要な7要素.
図2  医療産業振興のための組織体制.


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