NIMS NOW


特集 新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― ナノシステム機能センター ―

高温超伝導体によるナノアーキテクトニクス
究極のナノ3次元集積デバイスの候補
PHOTO PHOTO PHOTO PHOTO
ナノシステム機能センター
ナノ量子エレクトロニクスグループ
羽多野 毅
石井 明
有沢 俊一 王 華兵

 銅酸化物超伝導体は、結晶そのものが超伝導素子の基本構造(超伝導層Sの間に絶縁層Iを挟んだSIS接合)を持っています(図1)。半導体で言えばPN接合に相当するものですが、ビスマス系高温超伝導体の場合、その接合サイズは結晶のc軸方向の単位長である1.5nmで、規則正しく原子が並ぶ結晶ですから、結晶の端から端まで数百万個の直列アレイを形成しています。物質に固有に存在する素子構造であることから、「固有ジョセフソン接合」と呼ばれています。結晶のab面方向への微細加工には既にサブミクロン・スケールまで成功しています。これだけでは、集積度は1億接合/cm2ですが、先に述べた面と垂直方向へ数百万個のアレイを形成していることと併せると、数百兆接合/cm3となり、究極のナノ3次元集積デバイスの候補と言えます。超伝導素子は、半導体素子に較べて、動作速度・消費電力においてそれぞれ二桁優れています。この自然が私達に与えた3次元集積素子の応用を実現することで、人類の抱える諸問題(情報通信・エネルギー)の解決を目指します。
  これまで述べたことは、結晶に内在したナノ構造と、いわゆるトップダウン型ナノテクノロジーの融合と言えるものですが、自己組織化技術を組み合わせることも視野に入れています。私達のグループでは、結晶面からわずかに傾斜させた酸化マグネシウム(MgO)基板を熱処理することにより、規則正しいナノ構造を作製することに成功しました(表紙写真下)。これを利用することにより、ステップエッジ接合と呼ばれる構造の集積化を自己組織的に行うことが可能と考えられます(図2(a))。
  一方、人工的に面内方位が約24°傾いた粒界を形成するとそこがジョセフソン接合となることが知られています。私達はMgO基板上にビスマス系超伝導体の薄膜が成長する際、熱平衡状態では基板の結晶軸に対して薄膜は±12°の面内方位を持つことを発見しました(図2(b))。この性質を利用すると24°粒界を薄膜中に自然に形成(集積)することができ、バイクリスタル基板などを用いることなく結晶粒界接合を作製できる可能性があります。

図1
図2
図1  ビスマス系高温超伝導体の結晶構造.
図2  (a)ステップエッジ接合を自己組織化的に集積.
(b)MgO基板とBi2212薄膜の面内配向関係.


line
トップページへ