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特集 新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― ナノシステム機能センター ―

新規量子輸送現象の
発現を目指して
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ナノシステム機能センター
ナノ量子輸送グループ
宇治 進也
寺嶋 太一 矢ヶ部 太郎

 電子には「粒子」としての性質と「波」としての性質があります。現在利用されているシリコンデバイスでは、電子の粒子としての性質を利用し、その拡散的な運動(非量子力学的な電子の運動)を制御して機能を生み出していますが、その性能には限界が来ています。私たちは、次世代の革新的デバイスでは、電子の波としての性質を積極的に利用することが重要と考えています。電子の波が干渉できる状態(電子の“電荷”や“スピン”のコヒーレントな状態)を作り、その干渉を制御することで、今までにはない新規の量子輸送現象(電子やスピンの干渉現象)や量子機能(例えば量子スイッチング機能)を見出せると期待しています。そこで私たちは、電子のコヒーレントな状態が顕著になる、1)超伝導ナノ構造体、2)磁性と超伝導の競合系、3)密度波電子系において、次世代デバイス応用を見据えた新規量子輸送機能発現とそのメカニズムの解明をねらっています。
1)超伝導ナノ構造体
 アルミニウム(Al)は約1Kで超伝導を示します。Alを1μm程度まで小さくした構造体では、超伝導の臨界磁場がその試料サイズによって大きく変化します。したがって、異なる大きさのAlの構造体を作り、適当な大きさの磁場を印加すると、同一の金属でありながら、超伝導/常伝導/超伝導接合体が作製できます(図1)。このような接合体では、異種金属を組み合わせていないため、極めて良質な接合界面が実現できます。その界面では、超伝導を引き起こす電子対の特徴的な反射が顕著になり、この反射を利用した新規量子輸送機能発現が期待できます。
2)磁性と超伝導の競合系
 大きな磁気モーメントを内包する超伝導体では、超伝導体と磁性がお互いに競合や協調することで多様な物性が現れます。同一の物質内で実現する超伝導と磁性のコヒーレントな状態を、温度や磁場で制御し、新規量子機能を提案したいと考えています。
3)密度波電子系
 いくつかの化合物では、電子と結晶格子とのクーロン力により、巨視的な数の電子が集まって1つの電荷の波(電荷密度波)を作ります。さらにこの電荷密度波は適当な電場をかけることで、コヒーレントに動くことが知られています。この波の干渉効果を利用して(図2)、今までにはない量子機能を発現できる可能性を探っています。

図1
図2
図1  シリコン基板の上で作ったAlの量子ディスク.適当な磁場を印加することで、同一の金属でありながら超伝導/常伝導/超伝導接合体が実現できます.
図2  電荷密度波を示す物質、NbSe3の単結晶を微細加工することで実現した量子リング.磁場を印加することで、リングの上部と下部を通る電荷密度波が干渉することが期待されています.


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