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特集 新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― ナノシステム機能センター ―

ナノ機能計測法の新展開
− 新しい光検出STMの開発と利用 −
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ナノシステム機能センター
ナノシステム構造グループ
青野 正和
根城 均 櫻井 亮

 ナノシステム機能センターでは、局所の物性や機能を計測するために、新しいナノ機能計測法の開発を進めています。本特集の別の記事に書かれた多探針をもつ走査型トンネル顕微鏡(STM)はその一例ですが、本稿では、別の能力をもった新しい型の光検出STMを紹介します。光検出STM自体は新しくはありませんが、装置の工夫により、これまでには得られなかった新しい情報を得ることを可能にしました。
 この方法では、STMにおいて、探針と試料のトンネル間隙の近傍から発せられる光の i ) エネルギースペクトル、ii ) 直線偏光、iii ) 円偏光を計測しうる装置が付加されています(図1に示した模式図(a)と写真(b)を参照−円偏光の計測に必要な設備の写真は示されていない)。この装置によって様々な興味深い計測が可能ですが、本稿では、上で述べた i ) と iii ) の計測によって試料の表面にあるナノ構造の磁性の検出が可能であるという興味深い事実を示します。この方法の新しさは、磁性体の探針を用いないので試料の磁性は乱さない、探針形状の軸対称からのずれが問題にならないことにあります。
 この方法では、ナノ磁性体の下地としてガリウム砒素(GaAs)を使用します。探針から出たトンネル電子は、最終的にはGaAsの伝導帯に入り、価電子帯の正孔と対結合して光を発します。この発光の量子効率は大きく、強い発光が観測できます。これがGaAsを下地として用いる理由の一つです。図2に示した実験結果は、GaAsの上に鉄(Fe)薄膜(厚さ2nm程度)がある場合、探針を出たトンネル電子はその磁性薄膜を通過するさいに磁性薄膜の磁化の向きにスピンを偏極されるので、GaAsの中で正孔(スピンの偏極はない)と対結合するとき、角運動量保存則によって、円偏光に違いが生ずることを明瞭に示しています。
 こうして、ナノ構造の磁性の検出のための有望な新手法が開発されました。

図1
図2
図1  (a)光検出STMの概念図.(b)超高真空STMで
光ファイバーを用いた集光システム.
図2  (a)GaAs(110)表面、(b)Fe/GaAs(110)表面のSTM像と円偏光強度の試料バイアス電圧依存性.


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