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特集 新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― ナノシステム機能センター ―

「ナノ機能から
  ナノシステム機能へ」
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ナノシステム機能センター
センター長
青野 正和

 40数年前の1959年、リチャード・ファインマンは“There's plenty of room at the bottom”と題する有名な講演を行い、「コンピューターのメモリービットを一個の原子まで小さくすることに何の物理的な制約もない」という言葉で代表されるいくつかのきわめて重要なメッセージを残しました。それは今日のナノテクノロジーの発展を見通した慧眼の予言でした。しかし、当時、人々は「ファインマンさんご冗談でしょう。貴方は理論家だからそんなことが言えるでしょうが、それを実現する技術がありません。」と感じたのです。それから約20年後に、ビーニッヒとローラーが走査型トンネル顕微鏡(STM)を発明し、個々の原子の観察はもとより個々の原子の操作もまた可能な新しい顕微鏡を人類は手にすることになりました。STMとそれから派生した原子間力顕微鏡(AFM)を始めとする種々の走査型プローブ顕微鏡(SPM)によって今日のナノテクノロジーの目覚しい発展がもたらされ、ファインマンの夢がいろいろな意味で実現に近づきつつあります。
 たしかに、ナノテクノロジーは目覚しい発展をとげました。しかし、一方で、ナノテクノロジーは当初に期待されたほどの成果を上げていないのではないかとの懸念もまたもたれています。ナノテクノロジーが本当の発展をするためには、もうひとたび技術のブレークスルーが必要と感じます。
 筆者は、ファインマンがこの世に蘇ったらどんな発言をするだろうかと想像してみることがあります。彼はきっとまた驚くような発言をするでしょうが、その発言には次の意味のことが含まれるに違いありません。「面白い機能をもつナノ構造を1個創ったところで意味はないよ。問題はそれを並べて連結し、システムとしての機能を出させることだよ。私が提案した量子コンピューターも、そういう技術が開拓されなければ夢のまた夢。」
 本年度から発足した当センターは、その名の通り、「ナノ」構造を「システム」として組織化し、そこから新しい「機能」を生み出すために必要な種々の技術の開発とその利用を目的としています。この目的のために6つの研究グループを置きました(下図参照)。本特集の引き続く6つの記事において、それぞれのグループの研究活動の一端を紹介します。

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