NIMS NOW


特集 一層の発展が期待される萌芽研究

結晶劈開性を利用した両面微細加工法を開発
− 超伝導デバイスの3次元集積技術に新展開 −
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ナノシステム機能センター
ナノ量子エレクトロニクスグループ
王 華兵

 銅酸化物超伝導体は、結晶そのものが接合素子の構造を持ち、この各接合は、Bi2Sr2
CaCu2O8+δ(BSCCO)の場合、その間隔は約1.5nmで結晶のc軸方向に直列にスタックしていて、「固有ジョセフソン接合(IJJs)」と呼ばれています。IJJsが高温超伝導体において発見された結果、3次元ナノエレクトロニクス分野が切り拓かれ、垂直方向・水平方向の接合により、「原子で創った摩天楼を空中で繋ぐがごとくにナノアーキテクトニクスが可能」と考えられています。高周波領域の電磁波検出器、テラヘルツ(THz)発振器、超伝導ディジタル回路、量子コンピュータ素子など、次世代エレクトロニクスの主役が目白押しです。しかしながら、従来の微細加工プロセスでは、単結晶の片面からのみ加工されるため、元々3次元に集積している接合を自由に切り出すことは不可能です。
 この問題を解決するために、私は東北大学電気通信研究所山下研究室において両面加工法を発明しました。簡単に述べると、「劈開単結晶の両面をリソグラフィ法で微細加工することにより、面内方向にも、接合がスタックしている垂直方向にも、多種類のデバイスを意図した通りに構築することができる」、というものです(図)。この新しい作製法により、東北大学において、数多くの実験に成功してきました。例えば、超伝導アンテナと一体化した単一スタックにより最大2.5THzの照射(電磁波)を検出すること(図(a))、厚さがわずか36nmの単結晶スライスを取り扱うこと(図(b))、100,000の接合をワンチップ上に集積して量子電圧標準とすること(図(c))、1.5nm厚の1接合を取り出すこと(図(d))などです。
 NIMSに赴任してからは、厚さ100nmの中央電極を有する3端子スタック(図(e))により、自己加熱効果など、IJJs内部における物理的現象を従来よりも精密に知ることができるようになりました。さらに、このスタックは、ディジタル回路の三次元集積化のための基本要素にもなります。私達は、幅の狭いIJJsに基づいて、THz発振の励起による電流-電圧曲線上の等間隔電圧ステップの観測に成功しています。これを集積して(図(f))、発振パワーを数10μWに到達させることにも成功しています。
 さらに最近、リング状素子(図(g))、巨視的量子トンネル効果、ジョセフソン磁束ラチェット、その他多くの興味深い現象の観測により、この両面作製法は、バイオテクノロジー・ナノテクノロジーにおける材料研究と応用との間を橋渡しする上で重要な役割を果たす可能性を有することが実証されつつあります。

図
図  BiSrCaCuO-2212超伝導体の単結晶から作製された各種デバイス.例えば、(a)超伝導アンテナと一体化した固有ジョセフソン接合(IJJs)の単一スタック、(b)36nmの単結晶スライス、(c)2500個の直列スタックを有するアレイ、(d)1.5nm厚の1接合、(e)IJJsの3端子構造体、(f)狭スタックの集積アレイ、(g)リング状素子など.


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