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特集 一層の発展が期待される萌芽研究

超高圧合成法を用いた
新物質の創製
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ナノ物質ラボ
新物質発掘チーム
Alexei Belik
室町 英治

 最近の傾向として、新物質創製のためには、従来法ではない新奇な合成手法が必要となっています。中でも、高圧合成法は新物質探索・創製の強力な手段として認知されていますが、その利点を列挙すると、(1)通常ではあり得ない酸化数のイオンを安定化する、(2)通常ではあり得ない配位数を実現する、(3)常圧下では熱力学的に不安定な構造を安定化できる、(4)高密度物質を安定化する、等が挙げられます。私達はこの先進的な手法を、新しい強誘電性物質及びマルチフェロイック(強誘電性と磁性が共存する特性)物質の創製に活用しています。
 私達は6GPa(約6万気圧)の高圧、高温下で、通常の常圧合成手法では得られない物質群を合成してきました。対象とした系は非常に単純な組成BiMO3及び PbMO3(M:金属元素)を持つものであります。それらの中で、BiAlO3、BiInO3(図1)及びPbVO3(図2)は、広く利用されているBaTiO3やPbTiO3等を凌駕する大きな自発分極を示す有力な強誘電性材料の候補であることが明らかになりました。
 一方、BiAlO3-BiGaO3の固溶体系に関する研究から、この系は、非常に重要な実用圧電材料であるPb(Ti,Zr)O3と同じ構造を有していることが明らかになりました。BiAlO3、BiInO3、BiAlO3-BiGaO3は環境にやさしい鉛フリーの材料としてもたいへん興味深い物質です。
 他の最近の私たちの研究では、高圧合成で得られるBiScO3の構造がマルチフェロイックであるBiMnO3に非常に近い構造であることがわかってきました。しかし、BiScO3は中心対称を持つ空間群C2/cに属します。この結果は、BiMnO3の強誘電性が何に起因しているのかという非常に興味深い疑問を呈しますが、BiMnO3の強誘電性の起源を考える上でのMn3+の役割を理解するためには、BiScO3は非常によい対象物質であると言えます。
 さらに、BiGaO3はGa3+が四面体孔を占めるいわゆる輝石型構造をとることがわかりました。輝石は地殻、上部マントルの大部分を構成する物質であることから輝石型化合物は地質学的な観点から興味深い物質であり、高圧下において様々な相変態を示します。このように、高圧を利用した新物質探索は今までになかった新しい物質群の発見や既知物質の研究に大きく役立ちます。

図1
図2
図1  BiAlO3及びBiInO3の結晶構造.
図2  高圧下で育成されたPbVO3の結晶.


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