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特集 一層の発展が期待される萌芽研究

ナノサイズの分子による
自己組織化とアニオンセンシング
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ナノ有機センター
超分子グループ
Jonathan P. Hill
Jan Labuta

 機能性分子は、その性質を自由にコントロールできることやサイズが極めて小さいことなどから、様々なナノメートルスケールの光学・電子素子への応用が期待されています。例えば、極めて密度の高い情報素子やスイッチング素子の開発です。ポルフィリン類は、自然界では血液の赤色や植物の緑色の起源物質としても知られていますが(図(a))、分子エレクトロニクス素子への応用が期待される分子でもあります。というのも、いろいろな性質や構造の類縁体が自由に合成できますし、熱的な安定性は高く、そしてもちろんサイズが小さい(ポルフィリン一つで、1nm2程度)からです。私達は、特に物質センシングや電子素子などの開発に向けて、ポルフィリン分子の高機能化を手がけています。
 図に例示したポルフィリン分子は、材料表面に安定な構造を形成することもさることながら、様々な機能性官能基を自由に導入できるという点でも、魅力的な分子です。例えば、電子供与部を導入することによって、分子内のエネルギー移動や電子移動系を構築することができ、それらの過程を利用した機能開発が可能です。表紙写真上には、様々なハロゲンイオンに対して特定の色彩を呈するポルフィリンの挙動を示しました。このように、混ぜるだけですべてのハロゲンイオン種が区別できるという結果はこれまでに報告がなく、用途の広いアニオンセンサーに応用できるでしょう。この系は、もっと複雑なアニオン種や溶媒自体の選別に用いることもできます。図(b)に示したように、溶媒和したポルフィリン分子の中心のアミノ基にアニオンが水素結合し、その強さによって違った色がつくものと考えられています。例えば、フッ化物イオンは塩化物イオンの10倍もの強さで結合するので、違った色に見えます。
 これらのポルフィリン分子の構造は、その光学的な性質のデザインにも重要ですが、いろいろな超分子集合体−重なり合った集合体、フィラメント様構造、分子膜−などの形成も決定する因子となります。それらの構造は、X線結晶構造解析や電子顕微鏡、プローブ顕微鏡などの方法によって解明できます。例えば、二電子酸化によって、基板上で分子がその配置を変えていく様を直接捕らえることが可能になります。分子の構造と電気化学的な性質をより洗練させていけば、電子化学的な分子スイッチングデバイスの開発につながるかもしれません。酸化状態の分子は基板上に安定に固定化できることもわかっており、デバイス開発だけではなく分子レベルの基本現象の解明にも役に立ちます。

図
図  (a)本研究で用いたポルフィリン分子(OxP).Rは、各種官能基とすることが可能.Hは、水素原子.
(b) OxP中の結合部位.小さい分子は結合した分子を示す.
図中の黒丸は炭素、青丸は窒素、赤丸は酸素を示す.


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