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特集 一層の発展が期待される萌芽研究

若手研究者の育成
− 萌芽研究と自立性 −
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若手国際研究拠点
板東 義雄

 材料研究は “small science” と言われ、加速器や宇宙・航空などの “big science” 型の開発研究とは研究スタイルが大きく異なります。 “big science” ではチームの総合力が不可欠です。一方、 “small science” ではチーム力よりはむしろ研究者個人・個人の能力が問われます。とりわけ、萌芽的研究は個人の独創性が求められます。例えば、フラーレンやカーボンナノチューブの発見は萌芽的な個人研究がもたらした成果です。ノーベル賞級の大発見ほど、萌芽的な基礎研究分野におけるセレンディピティ(予期せぬ偶然の発見)による場合が多いのもまた興味深い事実です。
 このように独創的な研究は優れた研究者、とりわけ20代や30代の若手研究者がその大きな担い手となります。そのため、優秀な若手研究者を世界各国から確保し、そして育成していくことが求められます。若手研究者の確保・育成は物質・材料研究機構だけでなく今日の日本が抱える最大の課題であります。当機構は、平成15年度に若手国際研究拠点(International Center for Young Scientists, ICYS)を文部科学省科学技術振興調整費の支援を受けて発足させ、若手研究者の育成と国際化に取り組んでいます。ICYSでは世界各国から独創性に富んだ若手研究者が一堂に会し、言葉の障害もなく自分のアイディアで自立的に研究に没頭できる魅力的な研究環境を構築することにより、各研究者が最大限にその研究能力を発揮し、異分野や異文化の融合により独創的な研究成果を生み出すことを狙っています。また、同時に優秀な若手外国人研究者を機構に引きつけるための新しい研究システムの導入を図り、その成果を機構本体に移植することも意図しています。
 ICYSではこれまでに世界60カ国以上、約800名以上の応募者の中から、20カ国以上約40名以上の若手研究者を招聘してきました(平均年齢は約32歳)。研究費、個室、実験スペースを提供し、アドバイザー(機構の研究者)の下で自立して研究ができるような研究環境を保証しています。学位取得後数年を経た若手研究者は、研究指導者から少し距離をおいて自由な研究環境の中で独立して研究することが、若手研究者の独創性を最大限に発揮させ、且つ自立した優秀な研究者へと成長する道であると考えています。
 もちろん、“孤立”すると危険です。このため、若手研究者間の相互交流や相互啓発の機会を意識的に数多く設定しています。例えば、毎日30分のコーヒーブレークや毎週1回のセミナーなどが交流の場です。また、超一流のシニア研究者との個人面談(ノーベル化学賞受賞者のクロトー教授や北陸先端科学技術大学院大学潮田学長など)、サマースクールやワークショップなどの多様な育成プログラムが実施されています。
 このように、若手研究者の育成には研究者の自立性を尊重し、自由な発想の中から独創的な成果を生み出す研究システムの構築が重要です。萌芽的な研究こそ若手研究者の独創性を最大限発揮させる研究分野です。本誌では、5名の若手研究者の優れた最近の研究成果を紹介します。彼らの萌芽研究の成果が新しい融合研究の芽となり、当機構の中で大きく育ってゆくことを期待しています。


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