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特集

水を含まないシャボン膜「乾燥泡膜」を世界で初めて発見
− 究極の薄さを持つ自己支持性膜作製への道を拓く −
ナノ有機センター
機能膜グループ
一ノ瀬 泉
Jin Jian

 針金でできたフレームをセッケン水に漬けて引き上げると、シャボン膜(注)ができます。この膜に息を吹き付けると、「壊れて消える」シャボン玉となります。
 シャボン膜は、界面活性分子の働きによって、膜としての形状を保っています。この分子は、水に溶けにくい部分(疎水部)と溶けやすい部分(親水部)を有しており、水と空気の境界に集まる性質があります。シャボン膜では、このような界面活性分子が薄い水の膜を挟むように、疎水部を外側にむけて並んでいます。
平たい「水の膜」であるシャボン膜は、乾燥するにつれて薄くなります。温度や湿度をコントロールすると、シャボン膜を10nm程度まで薄膜化することができます。しかしながら、水がなくなると、シャボン膜は消滅してしまいます。これは、シャボン膜が水の「表面張力(表面の面積を小さくしようとする力)」によって維持されているからだと説明されてきました。
 私達は、数μmのフレームの中でシャボン膜を作製し、電子顕微鏡を用いてその構造を研究する過程で、いくつかの界面活性分子が「乾燥しても壊れないシャボン膜」を与えることを世界で初めて発見しました(図1)。マイクロメートルの領域では、水はシャボン膜を維持するための必須の構成要素ではなかったのです。乾燥したシャボン膜(乾燥泡膜)は、分子2個分(約3nm)の薄さであるにも関わらず、150℃以上の熱安定性を示すものも見つかっています。走査型電子顕微鏡の観察では、その薄さゆえに、レースのカーテンのように透けて見えます(図2および表紙写真下)。
 乾燥泡膜は、簡便な操作で得られる新しい分子膜の形態であり、その発見は、究極の薄さを持つ様々な自己支持性膜の作製技術を与えるでしょう。私達は、界面活性分子の設計により、より大面積かつ安定な乾燥泡膜を作製し、ナノ分離膜としての幅広い応用を目指しています。(注:シャボン膜は、学術的には「泡膜」と呼ばれています。)

図1  乾燥泡膜の形成過程.
図2  乾燥泡膜の走査型電子顕微鏡写真.


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