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特集

生体外における三次元培養装置を
利用した移植用臓器の再生技術
生体材料センター
高次機能生体材料グループ
岡村 愛
谷口 英樹

 肝臓や膵臓などの重篤な疾患を治療するために臓器移植が行われていますが、ドナー不足が深刻な問題となっています。そのため、生体臓器と同程度の高次機能をもった人工臓器を生体外で作り出す技術が必要とされています。生体内の組織や臓器に類似した3次元的な組織構造を作る方法として、従来は人工担体と一緒に細胞を培養する方法や、細胞を旋回させたり撹拌して培養する方法などが行われていましたが、創り出された組織の構造や性質が生体臓器とは異なるために、十分に人工臓器としての機能を果たすことができないという問題が残されていました。
 今回、私達は培養細胞の物理的損傷を最小限に軽減するために、模擬微小重力環境を利用して細胞を培養液中に浮遊させることにより、ゆっくりと集合させて3次元的な組織構造を形成させる方法を開発しました。使用した装置はNASA(米国)が開発した水平軸回転する1軸型回転細胞培養装置(図1)で、培養細胞にかかる重力を地上の重力の100分の1にすることができます。この装置を用いて、マウス胎児の肝臓から単離したバラバラの細胞を培養しました。10日間培養した結果、直径500〜1000μmの肝臓組織を生体外で創り出すことに成功しました(図1)。この組織を切断して内部構造を詳細に見てみると、胆管構造や血管構造がきちんと再構築されていました(図2)。培養期間を長くすると胆管構造はより大型で複雑になりました(図3)。生体内の肝臓組織は肝細胞の隙間に血管や胆管が入り込んだ複雑な構造をとっていますが、今回、生体外で創り出された肝臓組織の構造は、それらに極めて類似しているものでした。肝細胞に特徴的な遺伝子やタンパク質の発現レベルや高次機能(アンモニア代謝、薬物代謝、アルブミン産生、グリコーゲン貯蔵)の有無を解析した結果、生体内の肝臓と同じようなパターンになることが証明されました。
 この新しい三次元培養技術は、将来的には移植治療だけでなく、動物実験代替法や創薬スクリーニングへ応用されることも期待されます。

図1  1軸円筒型回転細胞培養装置.
右上は10日間の培養で形成された細胞の塊.
図2  塊を切断した内部構造.
図3  塊の内部には胆管(BD)や血管(BV)が形成されていた.


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